はじめに:ニュースで報じられた「司法書士による着服疑惑」が問いかけるもの

最近、残念なニュースが報じられましたね。遺産整理業務を依頼された司法書士が、預かった現金を着服したという疑惑です。このような報道は、私たち専門家への信頼を大きく揺るがしかねないものであり、相続手続きや財産管理を専門家に任せようと考えている方にとっては、大きな不安材料になったことでしょう。
しかし、これはあくまでごく一部の事例であり、多くの司法書士は高い倫理観と専門性を持ち、日々の業務に真摯に取り組んでいます。今回のニュースを一つの教訓として、私たちは専門家を選ぶ際にどのような点に注意すべきか、そして大切な財産を安心して任せられる信頼できる司法書士を見つけるためのポイントについて、一緒に考えていきましょう。
第1章:なぜ専門家による着服が起こるのか?その背景とリスク
専門家が依頼者の大切な財産を預かる業務において、なぜ着服のような問題が発生してしまうのでしょうか?その背景には、いくつかの要因が考えられます。
1.財産管理における透明性の欠如
依頼者側が預けた財産や、専門家が行っている業務の進捗状況を十分に把握できていない場合、不正が行われやすくなります。特に遺産整理業務のように、多額の金銭が動き、複数の手続きが絡む場合、その複雑さから「専門家任せ」にしてしまいがちです。ここに、不正の隙が生まれる可能性があります。
2.専門家側の倫理観の欠如
いくら法律や実務の知識が豊富でも、専門家としての高い倫理観が欠けていれば、誘惑に負けてしまう可能性はゼロではありません。一部の悪質な専門家は、依頼者の信頼を逆手に取り、自身の利益のために財産を流用しようとします。
3.事務所内のチェック体制や業界団体の監督不足
個人の事務所の場合、内部でのチェック体制が不十分なこともあります。また、業界団体による監督や指導が行き届いていない、あるいは不正が発覚しにくい構造になっている場合も、リスクを高める要因となります。特に、遺産整理業務のように、司法書士の職域が広がり、預かる財産の規模が大きくなる中で、より厳格なチェック体制が求められます。
遺産整理業務や成年後見業務など、依頼者の財産を直接管理する場面では、このようなリスクが潜んでいることを認識しておくことが重要です。
第2章:信頼できる司法書士を見分けるための5つのポイント
では、私たちはどうすれば、大切な財産を安心して任せられる司法書士を見つけることができるのでしょうか?次の5つのポイントを参考に、慎重に選びましょう。
1.依頼したい分野での十分な実績と経験があるか
司法書士と一口に言っても、専門分野は多岐にわたります。相続、不動産登記、借金問題、会社設立など、得意分野はそれぞれです。あなたが依頼したい業務(例:遺産整理)において、十分な実績や経験があるかを確認しましょう。事務所のウェブサイトに掲載されている情報や、過去の相談事例などを参考に、専門性の高さを判断してください。
2.説明が丁寧で、分かりやすい言葉で話してくれるか
法律に関する専門用語は、一般の方には馴染みがなく、理解しにくいものです。信頼できる司法書士は、専門用語を避け、依頼者の疑問に丁寧に答え、分かりやすい言葉で説明してくれます。不明な点を質問した際に、曖昧な返事をしたり、不機嫌になったりするような場合は、注意が必要です。あなたが納得できるまで、じっくりと説明してくれるかを重視しましょう。
3.費用の提示が明確で、透明性があるか
相談料や報酬体系が明確に提示されているかを確認することは非常に重要です。事前に見積もりを提示してくれるか、どのような業務にいくらかかるのかを具体的に説明してくれるかをチェックしましょう。不明瞭な費用や、後から追加費用が発生する可能性がないか、事前にしっかりと確認し、納得した上で依頼することが大切です。
4.複数の司法書士に相談し、比較検討する
「この人だ!」と直感的に感じたとしても、一人だけの司法書士に決めず、複数の事務所に相談し、比較検討することをおすすめします。対応の仕方、説明の丁寧さ、費用、事務所の雰囲気などを比較することで、よりあなたに合った司法書士を見つけやすくなります。無料相談を実施している事務所も多いので、積極的に活用してみましょう。
5.所属団体や登録情報を必ず確認する
司法書士は、日本司法書士会連合会に登録されています。また、各都道府県の司法書士会に所属しています。依頼を検討している司法書士が正規の専門家であるか、所属する司法書士会や登録情報を確認しましょう。事務所のウェブサイトに記載されていることがほとんどですが、不明な場合は直接問い合わせるか、各司法書士会のウェブサイトで検索することも可能です。これにより、資格を持たない「なりすまし」のリスクを防ぐことができます。
第3章:万が一の事態に備えて:トラブルを避けるための対策
信頼できる司法書士を選んだ後も、依頼者側でできるトラブル防止策があります。大切な財産を守るために、以下の点にも意識を向けてみましょう。
1.定期的な進捗確認と報告を求める
依頼した業務の進捗状況について、定期的に報告を求めるようにしましょう。漠然とした状況報告ではなく、具体的な手続きの進行状況や、預かっている書類、金銭の動きなどを詳細に報告してもらうことで、透明性を保つことができます。
2.財産の動きを自身でも把握する
司法書士に財産管理を任せる場合でも、預金通帳の記帳を定期的に行ったり、送られてくる書類(例:税金の通知、登記完了証など)の内容を自身でも確認したりして、財産の動きを常に把握しておくことが重要です。丸投げにせず、共同で管理する意識を持つことが大切です。
3.疑問や不安があればすぐに質問する
何か少しでも疑問や不安に感じることがあれば、遠慮せずにすぐに司法書士に質問し、解消するようにしましょう。小さな疑問も放置せず、納得できるまで確認することが、後々の大きなトラブルを防ぐことにつながります。
4.契約書の内容をよく理解する
業務委託契約書など、司法書士と交わす契約書は、必ず内容を隅々まで確認しましょう。業務の範囲、報酬額、精算方法、万が一の際の責任関係などが明確に記載されているかをチェックし、不明な点があれば署名前に必ず確認することが重要です。
まとめ:安心して依頼するために、賢い専門家選びを
今回のニュースは残念な出来事でしたが、これを機に、私たちが専門家を選ぶ際の意識を高める良い機会と捉えることもできます。
相続や不動産、借金問題など、人生の重要な局面で専門家のサポートは不可欠です。しかし、その専門家が本当に信頼できる人物であるかを見極める「目」を持つことが、私たち自身の財産を守る上で非常に重要です。
本記事で紹介したポイントを参考に、ぜひあなたにとって安心して大切な財産を任せられる司法書士を見つけてください。そして、何か困ったことや不安なことがあれば、決して一人で抱え込まず、ためらわずに専門家にご相談ください。あなたの賢い選択が、未来の安心につながります。
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この記事を書いた人

司法書士・行政書士 和田正俊事務所 代表和田 正俊(Wada Masatoshi)
- 滋賀県司法書士会所属 登録番号 滋賀第441号
- 簡裁訴訟代理関係業務 認定番号 第1112169号
- 滋賀県行政書士会所属
登録番号 第13251836号会員番号 第1220号 - 公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート滋賀支部所属
会員番号 第6509213号
後見人候補者名簿 及び 後見監督人候補者名簿 搭載 - 法テラス契約司法書士
- 近畿司法書士会連合会災害相談員
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