認知症初期でも可能!安心遺言の作り方

「最近、親の物忘れが気になる…」。 もしも、あなたの親御さんにそうした変化が見え始めたとき、ふと頭をよぎるのが「遺言書」のことかもしれません。
「まだ元気なうちに、遺言書を書いてもらっておいた方がいいのだろうか?」 「でも、物忘れが始まった親に、今から遺言書なんて書けるのだろうか?」
このような不安を感じる方は少なくありません。特に、ご自身の親御さんのこととなると、感情的な側面も絡み、どうすれば良いか迷ってしまうことでしょう。
結論からお伝えすると、物忘れや認知症の初期段階であっても、遺言書を作成できる可能性は十分にあります。 ただし、法的に有効な遺言書を作成するためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。そして、その過程では、司法書士のような専門家のサポートが非常に大きな力になります。
この記事では、滋賀県にお住まいの皆さんが、物忘れが始まった親御さんの遺言書作成を検討する際に、確認すべき法的な要件、具体的な手続きの流れ、そしてよくある疑問と注意点を、司法書士の視点から詳しく解説します。大切なご家族の「想い」を形にするために、ぜひ最後までお読みください。
1.「物忘れ」と「遺言能力」:法的に有効な遺言書とは?
1-1. 遺言書作成に不可欠な「遺言能力」とは?
遺言書は、亡くなった方の最後の意思を示す、大変重要な法的文書です。そのため、民法には遺言書が有効であるための様々な要件が定められています。その中でも、特に物忘れや認知症が懸念される場合に重要となるのが「遺言能力(いごんのうりょく)」です。
遺言能力とは、「遺言の内容を理解し、その結果がどうなるかを判断できる能力」を指します。具体的には、以下の3つの要素を理解している状態である必要があります。
- 自分が誰に、どの財産を、どれくらい分け与えるのかを理解していること
- 自分の財産の種類や全体像を概ね把握していること
- 遺言書を作成することが、どのような法的な意味を持つのかを理解していること
テ例えば、「長男に自宅の土地と建物を、次男には預貯金を渡す」という内容の遺言書を作成する場合、ご本人が「自宅の土地と建物がどのくらいの価値があり、それを長男に渡すことで次男との間で不公平が生じないか」といったことを、ある程度理解している必要があります。
単に「はい」と返事をするだけでなく、その内容について自分の言葉で説明できたり、質問に対して適切に答えられたりするかが、遺言能力を判断する上で重要な手がかりとなります。
1-2. 「物忘れ」=「遺言能力がない」ではない!初期段階なら作成のチャンスも
「物忘れが始まった」と聞くと、「もう遺言書は無理なのではないか」と諦めてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、物忘れがあることと、遺言能力がないことは、必ずしもイコールではありません。
認知症の診断を受けた方でも、症状の進行度合いによっては、遺言能力が認められるケースはあります。特に、物忘れが始まったばかりの初期段階であれば、遺言能力が十分にある可能性が高いです。
認知症には波があり、日によって、あるいは時間帯によって、症状の現れ方が異なることがあります。いわゆる「良い時間帯(BPSDが穏やかな時間帯)」であれば、判断力が比較的保たれていることも珍しくありません。司法書士や医師は、このような状態を見極めながら、遺言能力の有無を慎重に判断していくことになります。
重要なのは、「まだ大丈夫」と決めつけず、「もう無理」と諦めず、まずは専門家に相談してみることです。早期に相談することで、有効な遺言書を作成できる可能性が高まります。
1-3. 遺言能力が問題になった場合のデメリットとリスク
もし、遺言能力が不十分な状態で作成された遺言書は、後になって「遺言無効確認訴訟」の対象となり、最終的に無効と判断されるリスクがあります。遺言書が無効になると、以下のようなデメリットやリスクが生じます。
- 遺言者の意思が反映されない: せっかくの故人の最後の意思が無視され、法定相続分通りに遺産が分割されることになります。
- 相続人同士の紛争: 遺言書が無効となると、遺産分割協議をやり直す必要が生じ、相続人同士で遺産の分け方を巡って争いになる可能性が高まります。
- 時間と費用の浪費: 遺言無効の訴訟には、長い時間と多額の弁護士費用がかかることが多く、相続人の精神的・経済的負担が大きくなります。
- 関係性の悪化: 家族や親族間の関係が、一度こじれると修復が非常に困難になるケースも少なくありません。
このような事態を避けるためにも、物忘れが始まった親御さんの遺言書作成においては、特に慎重な対応と、専門家による適切なサポートが不可欠なのです。
2.物忘れが始まった親の遺言書作成:具体的な手続きの流れ
物忘れが始まった親御さんの遺言書を作成する際、最も推奨されるのは**公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)**です。公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成に関与するため、後に遺言能力が争われるリスクを大幅に減らすことができます。
ここでは、公正証書遺言を作成する際の具体的な流れを、司法書士がどのようにサポートするかを交えながら解説します。
2-1. ステップ1:現状の把握と専門家への相談(最も重要!)
まずは、親御さんの現在の健康状態、特に認知機能の状況を把握することが重要です。そして、できるだけ早く司法書士に相談しましょう。
- 司法書士との面談: 親御さんの物忘れの具体的な状況(いつから、どのような物忘れがあるか、会話はどの程度できるかなど)、ご家族の状況、財産の概要などを詳しく伺います。
- 遺言能力の初期判断: 司法書士は、面談を通して親御さんの受け答えや理解度から、遺言能力の有無について初期的な判断を行います。
- 医師との連携の必要性: 遺言能力について医学的な判断が必要と判断された場合、医師による診断書や意見書の取得を提案します。
この段階で、遺言書作成が困難であると判断されるケースもありますが、その場合でも、成年後見制度の利用など、他の選択肢についてアドバイスを受けることができます。
2-2. ステップ2:医師による「遺言能力に関する診断書(意見書)」の取得
公正証書遺言を作成する場合、特に物忘れや認知症の診断がある方の場合、公証人から医師の診断書(遺言能力に関する意見書)の提出を求められることがほとんどです。
- 診断書の内容: 診断書には、遺言作成時の判断能力の程度、会話能力、意思疎通能力などが具体的に記載されます。公証人が遺言能力の有無を判断するための重要な資料となります。
- かかりつけ医との相談: まずは、親御さんの日頃の様子をよく知るかかりつけ医に相談し、診断書作成の依頼を検討してもらいましょう。診断書の取得に協力的な医師を見つけることも重要です。
- 司法書士によるサポート: 司法書士は、公証役場が必要とする診断書の形式や内容について、医師への説明をサポートすることができます。また、必要に応じて、診断書作成のための準備もアドバイスします。
医師の診断書は、遺言能力を客観的に証明する非常に強力な証拠となります。
2-3. ステップ3:遺言内容の検討と必要書類の準備
遺言能力があると判断されたら、具体的な遺言内容を検討し、必要書類を収集します。
- 遺言内容の決定: 誰に、どの財産を、どのように分け与えたいか、親御さんの明確な意思を確認します。司法書士は、法的な観点からアドバイスを行い、遺言内容が曖昧にならないようサポートします。
- 財産状況の確認: 不動産の所在地、預貯金の口座情報、株式などの有価証券情報など、具体的な財産の詳細を把握します。
- 必要書類の収集:
- 遺言者ご本人の印鑑登録証明書
- 遺言者ご本人の住民票
- 財産に関する書類(不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳のコピーなど)
- 遺言執行者を指定する場合は、その方の氏名・住所・生年月日
- 受遺者(財産を受け取る人)の氏名・住所・生年月日(続柄を証明する戸籍謄本なども必要になる場合があります)
- 証人2名分の身分証明書と住民票(司法書士が証人になることも可能です)
- 医師の診断書(遺言能力に関する意見書)
- その他、公証人が必要と判断する書類
司法書士は、これらの書類の収集を代行したり、必要な書類リストを提示したりして、ご家族の負担を軽減します。
2-4. ステップ4:公証役場との打ち合わせと遺言書作成
いよいよ公証役場で遺言書を作成する段階です。
- 公証人との事前打ち合わせ: 司法書士が代理で公証役場と連絡を取り、遺言内容の草案、必要書類、遺言作成の日程などを調整します。物忘れがある場合は、公証人がご本人の状況を事前に把握できるよう、詳細な情報を提供します。
- 遺言書作成当日: 遺言者ご本人、証人2名、そして公証役場の公証人が立ち会います。公証人が遺言内容を読み上げ、遺言者ご本人がその内容を理解し、間違いがないことを確認します。
- 公証人による遺言能力の最終確認: 公証人は、遺言者ご本人との会話を通じて、その場で遺言能力が十分にあるかを最終的に判断します。医師の診断書があっても、公証人自身の判断が最優先されます。
- 意思確認の重要性: 物忘れがある場合、公証人はより丁寧に意思確認を行います。場合によっては、質問の仕方を変えたり、繰り返し確認したりすることもあります。
- 署名・押印: 遺言者ご本人、証人、公証人がそれぞれ署名し、押印します。
- 原本の保管: 作成された公正証書遺言の原本は、公証役場で厳重に保管されます。遺言者には正本と謄本が交付されます。
司法書士は、作成当日の立ち会いだけでなく、公証人との意思疎通の橋渡し役となり、スムーズな手続きをサポートします。
3.滋賀県で遺言書作成を検討する際のよくある疑問と注意点
3-1. 司法書士に依頼するメリットは?費用はどのくらい?
物忘れが始まった親御さんの遺言書作成において、司法書士に依頼することには大きなメリットがあります。
- 遺言能力の判断サポート: 医師との連携を含め、遺言能力の有無を判断するための適切なアドバイスを提供します。
- 公正証書遺言作成の円滑化: 公証役場との複雑な事前打ち合わせや必要書類の準備を代行し、手続きをスムーズに進めます。
- 有効性の確保: 法的に有効な遺言書を作成するための要件を熟知しており、将来のトラブルを未然に防ぎます。
- ご家族の負担軽減: 精神的にも大変な時期に、ご家族が手続きに奔走する負担を大幅に軽減します。
- 証人引受: 適切な証人を見つけるのが難しい場合、司法書士が証人となることも可能です(別途費用がかかります)。
費用については、ケースによって異なりますが、一般的には公正証書遺言の作成サポートで10万円~20万円程度(税別)が目安となることが多いです。これに、公証役場に支払う手数料(遺産の価額によって変動)や、診断書作成費用などが別途かかります。
滋賀県大津市の司法書士・行政書士和田正俊事務所では、無料相談も受け付けておりますので、まずはご相談いただき、具体的な見積もりを依頼することをお勧めします。
3-2. 自筆証書遺言は作れる?
物忘れが始まった方の場合、自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)は推奨されません。
自筆証書遺言は、遺言者が全文を自筆し、日付と氏名を書いて押印するだけで作成できるため、手軽な反面、以下のようなリスクがあります。
- 遺言能力の判断サポート: 医師との連携を含め、遺言能力の有無を判断するための適切なアドバイスを提供します。
- 公正証書遺言作成の円滑化: 公証役場との複雑な事前打ち合わせや必要書類の準備を代行し、手続きをスムーズに進めます。
- 有効性の確保: 法的に有効な遺言書を作成するための要件を熟知しており、将来のトラブルを未然に防ぎます。
- ご家族の負担軽減: 精神的にも大変な時期に、ご家族が手続きに奔走する負担を大幅に軽減します。
- 証人引受: 適切な証人を見つけるのが難しい場合、司法書士が証人となることも可能です(別途費用がかかります)。
遺言能力に少しでも不安がある場合は、費用がかかっても必ず公正証書遺言を選択すべきです。
3-3. 遺言書作成が難しい場合、他の選択肢は?
もし、医師の診断や公証人の判断により、現時点での遺言書作成が困難と判断された場合でも、諦める必要はありません。
- 成年後見制度の利用: 親御さんの判断能力が著しく低下している場合、家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」を選任してもらう制度です。成年後見人は、親御さんの財産管理や身上監護を行い、本人の利益を最大限に保護します。ただし、成年後見人が遺言書を作成することはできません。
- 生前贈与: 親御さんが自身の意思で贈与の意思を示せる状況であれば、財産の一部を生前に贈与することも考えられます。ただし、贈与税の問題や、後々の遺産分割に影響を与える可能性もあるため、専門家とよく相談する必要があります。
- 任意後見契約: 親御さんの判断能力がまだ十分なうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、財産管理や身上監護を任せる人(任意後見人)を事前に決めておく契約です。この契約は、将来の「もしも」に備える有効な手段となります。
いずれの選択肢も、親御さんの状況やご家族の意向に合わせて慎重に検討する必要があります。司法書士は、これらの選択肢についても適切なアドバイスを提供し、最適な方法を一緒に探します。
3-4. 滋賀で依頼できる司法書士の選び方
滋賀県内で物忘れが始まった親御さんの遺言書作成を依頼する司法書士を選ぶ際には、以下の点を参考にしてください。
- 相続・遺言・成年後見の実績が豊富か: これらの分野に精通し、多くの解決実績がある事務所を選びましょう。
- 丁寧なヒアリングと説明があるか: ご家族の状況や親御さんの状態を丁寧に聞き取り、専門用語を使わずに分かりやすく説明してくれる司法書士が良いでしょう。
- 医師や公証役場との連携経験があるか: 物忘れがある方の遺言書作成は、医療機関や公証役場との連携が不可欠です。これらの機関との連携経験が豊富な司法書士は頼りになります。
- 料金体系が明確か: 事前に見積もりを提示し、追加費用が発生する可能性がある場合もきちんと説明してくれる事務所を選びましょう。
- アクセスの良さや出張対応の有無: 親御さんのご自宅からのアクセスや、必要に応じて出張対応が可能かどうかも確認すると良いでしょう。
司法書士・行政書士和田正俊事務所は、滋賀県大津市を拠点に地域密着で活動しており、相続・遺言・成年後見に関する豊富な経験と実績がございます。どうぞお気軽にご相談ください。
4.最後に:大切なのは「早めの相談」と「ご家族の協力」
物忘れが始まった親御さんの遺言書作成は、時間との勝負になることも少なくありません。症状が進行してしまうと、有効な遺言書作成が難しくなるリスクが高まります。
「もう少し様子を見よう」と先延ばしにせず、「もしかしたら…」と感じたその時が、司法書士に相談する最適なタイミングです。
そして、このプロセスは、ご家族の協力なしには成り立ちません。親御さんの意思を尊重し、穏やかな気持ちで遺言書作成に向き合えるよう、ご家族が一致団結してサポートすることが何よりも大切です。
私たち司法書士は、ご家族の想いに寄り添い、法的な知識と経験をもって、大切なご親族の最後の意思が、法的に有効な形で確実に次世代へ引き継がれるよう、全力でサポートいたします。
滋賀県にお住まいで、親御さんの遺言書についてお悩みの方は、ぜひ一度、司法書士・行政書士和田正俊事務所にご相談ください。
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この記事を書いた人

司法書士・行政書士 和田正俊事務所 代表和田 正俊(Wada Masatoshi)
- 滋賀県司法書士会所属 登録番号 滋賀第441号
- 簡裁訴訟代理関係業務 認定番号 第1112169号
- 滋賀県行政書士会所属
登録番号 第13251836号会員番号 第1220号 - 公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート滋賀支部所属
会員番号 第6509213号
後見人候補者名簿 及び 後見監督人候補者名簿 搭載 - 法テラス契約司法書士
- 近畿司法書士会連合会災害相談員
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