【災害支援】司法書士が守る被災者の財産

【災害支援】司法書士が守る被災者の財産

はじめに:能登半島地震と司法書士の役割

2024年1月に発生した能登半島地震は、多くの人々に甚大な被害をもたらしました。住まいや生活基盤が失われる中で、被災された方々が直面するのは、物理的な復旧だけではありません。法律に関する様々な「困った」に直面することも少なくないのです。
このような非常時において、私たち司法書士は、被災された方々の生活再建を法的な側面からサポートする重要な役割を担っています。実際に、日本司法書士会連合会も、地震発生直後から長期間にわたり、被災者向けの無料電話相談を積極的に実施してきました。
この章では、能登半島地震の事例を元に、大規模災害時に司法書士がどのような役割を果たすのか、具体的な支援内容や、いざという時のために日頃から備えておくべきことについて詳しく解説していきます。

第1章:災害時に被災者が直面する法律問題とは?

大規模な災害が発生すると、私たちの生活基だけでなく、大切な財産や権利に関わる予期せぬ法律問題が次々と浮上します。被災された方々が特に直面しやすい具体的な問題を見ていきましょう。

1.不動産・権利証に関する問題

  • 権利証の紛失と再発行の困難さ: 家屋が損壊したり流失したりして、不動産の権利証(登記済証または登記識別情報通知)を紛失してしまうケースは少なくありません。しかし、権利証は原則として再発行ができないため、今後の不動産取引(売却、担保設定など)に支障が出る可能性があります。司法書士は、権利証がない場合の代替手続きについてアドバイスし、支援します。
  • 名義変更や債務者変更の必要性: 被災した土地や建物の名義変更(相続登記など)をしたいが、必要書類が揃わないことがあります。また、建物再建、生活・事業資金の調達のために抵当権設定を行ったり、根抵当権の債務者の変更を行って、金融機関との取引を円滑に進める必要性もあります。
  • 再建後の登記: 再建後の新しい建物の保存登記など、複雑な登記手続きが必要になります。

2.. 相続に関する問題

  • 相続手続きの発生と混乱: 災害で家族を亡くされた場合、悲しみに暮れる中で相続手続きを進めなければなりません。どこから手をつけていいか分からない、必要な書類が手元にない、といった状況に陥りがちです。
  • 遺言書の紛失や不明瞭化: 大切な遺言書が災害で失われたり、破損して内容が判読できなくなったりすることもあります。
  • 相続人との連絡困難: 相続人が遠方で被災地にいたり、安否確認が難しい状況では、相続人同士の連絡が取れず、手続きが進まないことがあります。

3.財産管理・金銭に関する問題

  • 借金やローンの返済困難: 災害によって収入が途絶えたり、住まいを失ったりすることで、住宅ローンや借金の返済が困難になるケースが多発します。
  • 預貯金や印鑑の紛失: 預金通帳やキャッシュカード、印鑑などを紛失してしまい、生活費を引き出せないといった問題も起こり得ます。
  • 成年後見制度の必要性: 親族が被災によって心身ともに大きな負担を受け、判断能力が一時的または永続的に低下し、財産管理ができなくなる場合、成年後見制度の利用を検討する必要があります。

4.その他のトラブル

  • 災害便乗詐欺: 災害に乗じて、「復旧費用が必要」「寄付を募っている」などと偽り、金銭を騙し取ろうとする悪質な詐欺被害も報告されます。
  • 賃貸借契約のトラブル: 賃貸物件が被災した場合の契約解除や修繕費用の負担、敷金の返還などをめぐって、貸主との間でトラブルになることもあります。

これらの問題は、法律や手続きに関する専門知識がなければ解決が非常に難しく、被災の心労の中で一人で抱え込むことは大きな負担となります。

第2章:司法書士が災害時にできること:具体的な支援内容

上記の様々な法律問題に対し、私たち司法書士は、専門家として具体的なサポートを提供し、被災された方々の再出発を支援します。

1.不動産登記に関する支援

  • 権利証紛失時の登記手続き: 権利証を失くしてしまっても、司法書士が関与することで登記手続きを進めることが可能です。権利証の代わりに、司法書士が本人確認を行い、その情報を基に登記を行う事前通知制度や、本人確認情報提供制度の活用をアドバイスし、手続きを代行します。
  • 損壊家屋の滅失登記・再建後の登記: 全壊した建物は、法務局の登記簿からその存在を抹消する滅失登記が必要です。また、新しい建物を再建した際には、その建物の所有者を明確にする保存登記の申請をサポートします。
  • 相続による不動産の名義変更: 災害で亡くなった方から不動産を相続する場合の相続登記手続きを支援します。相続人の特定から、遺産分割協議書の作成、登記申請まで、複雑な手続きを一貫してサポートします。

2.相続・遺言に関する支援

  • 相続人調査・遺産分割協議のアドバイス: 災害による相続発生時、誰が相続人になるのかを特定する相続人調査を行い、相続人全員で遺産をどのように分けるかを話し合う遺産分割協議について、法的なアドバイスを提供します。
  • 遺言書に関する相談: 遺言書が見つからない、または災害で失われた場合の対処法(遺言書の検認手続きなど)について相談に応じます。
  • 相続放棄・限定承認の手続き: 被災により、相続財産よりも借金の方が多い場合など、相続放棄や限定承認といった手続きが必要になることがあります。司法書士がその手続きを支援します。

3.成年後見制度に関する支援

  • 判断能力低下時のサポート: 災害により、ご高齢の方や障害をお持ちの方の判断能力が不十分になった場合、その財産管理や契約行為を支援する成年後見制度の利用について相談に応じ、家庭裁判所への申立て手続きをサポートします。

4.債務整理に関する支援

  • 借金問題の解決: 被災によって借金の返済が困難になった方に対し、任意整理、自己破産、個人再生など、状況に応じた債務整理の方法を提案し、手続きを支援します。特に、災害時には特別な対応(二重ローン問題など)が必要となる場合もあり、適切なアドバイスを行います。

5.無料法律相談の実施

  • 日本司法書士会連合会や地域の司法書士会は、大規模災害が発生した場合、被災地やその周辺地域で無料の法律相談会を積極的に開催します。電話相談やオンライン相談を活用し、交通手段が限られる被災地の方々にも、専門家が直接アドバイスを提供できるよう努めます。

第3章:日頃からの備えと、司法書士の活用

災害はいつ、どこで発生するか予測できません。万が一の事態に備え、日頃からできる準備と、司法書士の活用方法を知っておくことが、あなたの安心につながります。

1.重要書類の保管場所の確認と整理

  • 安全な場所への保管: 不動産の権利証、預金通帳、保険証券、遺言書、年金手帳など、大切な書類は、災害時に持ち出せるようにまとめておくか、耐火金庫や貸金庫、または耐火性の高い収納ボックスなど、安全な場所に保管しましょう。
  • デジタルデータの活用: 書類のスキャンデータや写真データとして、クラウドサービスや外付けHDDなどに保存しておくことも非常に有効です。物理的な損傷から情報を守ることができます。
  • リストの作成: どのような重要書類がどこにあるのかを記したリストを作成し、信頼できる家族と共有しておくことも大切です。

2.家族間での情報共有と話し合い

  • 緊急連絡先の共有: 家族間でお互いの緊急連絡先、職場や学校の連絡先、集合場所などを確認し、共有しておきましょう。
  • 財産状況の共有: もしもの時に備え、家族間でどのような財産(不動産、預貯金、保険など)があり、どこに管理されているのかを話し合い、情報を共有しておくことが重要です。

3.遺言書の作成を検討する

  • もしもの時に自身の財産をどのように分けたいか、誰に託したいかを明確にするために、遺言書を作成することは非常に有効な備えとなります。遺言書があれば、残された家族が相続手続きで困ることを減らせるだけでなく、争いを未然に防ぐことにもつながります。司法書士は、遺言書作成のサポート(法的な形式の確認、公正証書遺言の作成支援など)を行っています。

4.司法書士を「身近な法律家」として知っておく

  • 災害時だけでなく、日常生活においても、相続、不動産取引、財産管理、借金問題など、法律に関する困りごとはいつ発生するか分かりません。司法書士は、これらの身近な法律問題に対応できる専門家です。いざという時のために、地域の司法書士会や、信頼できる司法書士事務所の情報を知っておくと良いでしょう。定期的に開催される無料相談会などを利用して、気軽に相談できる関係性を築いておくこともおすすめです。

まとめ:司法書士は、あなたの「もしも」に寄り添うパートナー

能登半島地震の被災者支援の事例からもわかるように、大規模災害時において司法書士は、被災された方々が直面する様々な法律問題に対し、専門知識と経験を活かして具体的な支援を行う重要な役割を担っています。
大切な財産や権利を守り、一日も早い生活再建を支援するために、私たち司法書士は「あなたのもしも」に寄り添う、身近で頼れるパートナーでありたいと願っています。
災害は突然やってきます。日頃からの備えと、いざという時に頼れる専門家を知っておくことが、あなたの安心につながります。もし法律に関するお困りごとがあれば、お気軽に地域の司法書士にご相談ください。

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この記事を書いた人

司法書士・行政書士 和田正俊事務所 代表和田 正俊(Wada Masatoshi)

  • 滋賀県司法書士会所属 登録番号 滋賀第441号
  • 簡裁訴訟代理関係業務 認定番号 第1112169号
  • 滋賀県行政書士会所属
    登録番号 第13251836号会員番号 第1220号
  • 公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート滋賀支部所属
    会員番号 第6509213号
    後見人候補者名簿 及び 後見監督人候補者名簿 搭載
  • 法テラス契約司法書士
  • 近畿司法書士会連合会災害相談員

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