凍結口座への不当な強制執行問題:公証人連合会が公正証書の「慎重な作成」を要請

読売新聞オンラインで報じられた凍結口座からの不当な強制執行問題は、公正証書の利用に関わる重要な警鐘を鳴らしています。この問題では、コンサルティング会社「スタッシュキャッシュ」が、虚偽の貸し付けを内容とする公正証書を基に、不当な強制執行を行っていたとされています。
日本公証人連合会は、これを受けて全国の公証人に対し、公正証書の慎重な作成を求める通知を出しました。これは、公正証書が持つ法的拘束力ゆえに、その作成と利用には極めて高い注意が必要であることを示しています。
問題の背景にある「公正証書」の力
公正証書は、公証人が公証役場で作成する公文書です。特に、金銭消費貸借契約に関する公正証書には、もし借金が滞れば裁判手続きを経ずに強制執行ができるという「強制執行認諾文言」を付すことが可能です。これにより、迅速な債権回収が可能となるため、多くの企業や個人が利用しています。
しかし、今回の問題では、この強力な効力を持つ公正証書が、不正な目的で利用された疑いが浮上しています。スタッシュキャッシュ社は、回収不能な貸付金の「貸し倒れ処理」を名目に、実際には存在しない、あるいは一部回収済みの貸し付けについて、「強制執行を試みて失敗した形跡を残したい」といった不自然な説明で公正証書を作成させていました。そして、この証書を使って実際に不当な強制執行を行い、資金を回収していたというのです。
公正証書作成時の「本人確認」と「内容確認」の重要性
今回の問題を受け、日本公証人連合会と法務省は、以下の点について公証人に対し特に慎重な対応を要請しています。
- 同じ当事者が高額な貸し付けを繰り返しているケース
- 代表者や所在地が共通している法人間の貸し付けであるケース
これらの場合、公証人には貸し借りを証明する客観的な資料を十分に確認することが求められます。これは、公正証書の信頼性を守り、不正利用を未然に防ぐための極めて重要な措置です。
実際、問題となった公正証書のうち1通については、東京地裁が「証書に記載された貸金債権の存在を認めることができない」との判決を下しています。複数の法人の所在地が同じであったり、当事者が「証書の内容は虚偽」と証言したりするなど、不審な点が多数明らかになったためです。
私たち司法書士が考える「公正証書」の適切な利用と注意点
今回の問題は、公正証書が持つ強力な法的効力と、それを支える公証人の職責の重さを改めて浮き彫りにしました。私たち司法書士は、公正証書の作成支援や、不動産登記、商業登記を通じて、契約の適法性や取引の安全性を確保する役割を担っています。
公正証書は、適切に利用すれば非常に有効な法的ツールです。しかし、その作成にあたっては、以下の点に十分注意が必要です。
- 契約内容の真実性: 記載される債権・債務の内容が事実に基づいているか、虚偽の内容が含まれていないかを確認することが最も重要です。
- 添付資料の適切性: 契約の根拠となる貸借契約書や領収書など、客観的な資料を正確に提示できる状態であるか確認しましょう。
- 公証人との連携: 不明な点や不安な点があれば、公証人に積極的に質問し、十分に理解した上で作成を進めることが大切です。
不当な請求から身を守るために
もし、身に覚えのない公正証書を根拠とした請求や強制執行を受けた場合は、速やかに専門家である司法書士にご相談ください。
- 債務不存在の確認: 請求内容が虚偽である場合、裁判所に債務不存在確認訴訟を提起し、公正証書に基づく強制執行の停止を求めることが可能です。
- 強制執行への対応: 強制執行が開始された場合でも、その内容や手続きに不備があれば、異議申し立てなどの手続きをとることができます。
今回の件は、公正証書という強力な制度が悪用されかねないことを示しています。公正証書を利用する際、あるいは公正証書を根拠とした請求を受けた際は、その内容の正当性を慎重に確認し、少しでも疑問があれば、すぐに専門家にご相談いただくことを強くお勧めします。
公正証書に関するご相談や、不当な請求でお困りの際は、当事務所までお気軽にご連絡ください。
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この記事を書いた人

司法書士・行政書士 和田正俊事務所 代表和田 正俊(Wada Masatoshi)
- 滋賀県司法書士会所属 登録番号 滋賀第441号
- 簡裁訴訟代理関係業務 認定番号 第1112169号
- 滋賀県行政書士会所属
登録番号 第13251836号会員番号 第1220号 - 公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート滋賀支部所属
会員番号 第6509213号
後見人候補者名簿 及び 後見監督人候補者名簿 搭載 - 法テラス契約司法書士
- 近畿司法書士会連合会災害相談員
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