
最終更新日:2025年12月24日
はじめに:なぜ年末年始が成年後見を考えるベストタイミングなのか
年の瀬を迎え、多くのご家族が久しぶりに一堂に会する季節となりました。普段は離れて暮らしているご両親との時間が増えるこの時期、「あれ、お父さん、前と何か違うかな?」「お母さん、同じことを何度も聞くようになったな」と感じることはありませんか?
司法書士として数多くの成年後見案件に携わってきた経験から申し上げますと、年末年始は成年後見制度について真剣に考える絶好のタイミングです。家族が集まる機会が多く、普段見えない親の変化に気づきやすいのがこの時期なのです。
成年後見制度は、認知症や障害により判断能力が不十分になった方を法的に保護・支援する重要な制度です。「まだ大丈夫」と思っているうちに準備を始めることが、ご本人にとっても、ご家族にとっても最善の選択となります。
成年後見制度の基本|2025年最新版で理解する制度概要
成年後見制度とは何か
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分でない方の権利と財産を守るための法的な制度です。本人に代わって契約を結んだり、財産を管理したりする「後見人」を選任し、本人の生活を支援します。
この制度の根本的な考え方は「ノーマライゼーション」と「自己決定の尊重」です。つまり、判断能力に問題があっても、できる限り本人の意思を尊重し、通常の社会生活を送れるよう支援することを目的としています。
法定後見と任意後見の違い
成年後見制度には大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2つがあります。
法定後見制度は、すでに判断能力が不十分になった方のための制度で、本人の判断能力の程度に応じて以下の3つに分かれます:
- 後見:判断能力が欠けているのが通常の状態の方
- 保佐:判断能力が著しく不十分な方
- 補助:判断能力が不十分な方
任意後見制度は、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ後見人となる人と契約を結んでおく制度です。自分の意思がはっきりしているうちに、信頼できる人を選び、どのような支援をしてもらいたいかを決めておけます。
2025年の制度改正ポイント
2025年現在、成年後見制度の運用において重要な変化が生じています。特に注目すべきは、本人の意思決定支援により重点が置かれるようになった点です。従来の「代理・代行」から「意思決定支援」への転換が進んでおり、後見人の役割もより柔軟になっています。
また、デジタル化の進展に伴い、オンラインでの手続きや電子署名の活用も部分的に導入され始めています。これにより、遠方にお住まいのご家族でも、より参加しやすい環境が整いつつあります。
年末年始のチェックポイント|親の認知機能と判断能力を見極める
日常生活での観察ポイント
年末年始に実家を訪れた際、以下の点を自然に観察してみてください:
金銭管理の状況
- お財布の中身が整理されているか
- 同じものを何度も購入していないか
- 通帳の記録に不自然な出金がないか
- 請求書や領収書の管理状況
書類整理の様子
- 重要書類がきちんと保管されているか
- 同じ書類が何通もあったり、紛失していないか
- 郵便物が溜まっていたり、未開封のものがないか
会話の内容と反応
- 同じ話を繰り返すことが増えていないか
- 昔のことは覚えているが、最近のことを忘れやすくないか
- 複雑な話についていけなくなっていないか
医療・介護の現状把握
年末年始の機会に、親の医療・介護の状況も確認しましょう:
- 定期的に通院できているか
- 薬の飲み忘れや重複はないか
- 介護サービスを適切に利用できているか
- ケアマネージャーとの連携は取れているか
危険なサインを見逃すな
特に注意すべき危険なサインがあります:
- 知らない業者との契約書が見つかる
- 不審な電話に対応している様子
- 高額な商品を衝動的に購入している
- 近所の人とのトラブルが増えている
これらのサインが見られる場合は、できるだけ早く専門家に相談することをお勧めします。
家族会議の進め方|年末年始の話し合いで決めるべきこと
話し合いの準備
効果的な家族会議を開くための準備が重要です:
参加者の調整
- 主要な家族全員が参加できる日程調整
- 本人の体調や機嫌の良い時間帯の選択
- 必要に応じて専門家(ケアマネ、医師等)の同席
資料の準備
- 成年後見制度の説明資料
- 本人の財産に関する資料
- 医療・介護の現状をまとめた資料
検討すべき重要項目
家族会議で話し合うべき主な項目は以下の通りです:
1. 後見人候補者の選定
- 家族の中から選ぶ場合の適任者
- 司法書士等の専門職後見人の活用
- 複数後見や法人後見の検討
2. 財産管理の方針
- 日常的な支出の管理方法
- 不動産の管理や処分方針
- 投資や保険の取り扱い
3. 医療・介護の方針
- 延命治療に関する本人の意思
- 入院・入所の希望
- 介護サービスの利用方針
意見がまとまらない場合の対処法
家族間で意見が対立することも珍しくありません。そのような場合は:
- 専門家を交えた話し合いの機会を設ける
- 段階的に検討し、急がず時間をかける
- 本人の意思を最優先に考える
- 話し合いの内容を記録に残す
成年後見の申立て手続き|司法書士が解説する具体的な流れ
申立て前の準備
成年後見の申立てには、以下の準備が必要です:
必要書類の収集
- 本人の戸籍謄本・住民票
- 申立人の戸籍謄本
- 後見人候補者の戸籍謄本・住民票
- 本人の登記されていないことの証明書
医師の診断書取得
家庭裁判所指定の診断書様式による医師の診断書が必要です。主治医がいる場合は主治医に、いない場合は精神科や神経内科の医師に依頼します。
財産目録の作成
本人の全財産を詳細に調査し、目録を作成します。不動産、預貯金、株式、保険、借金等をすべて明らかにする必要があります。
申立て手続きの詳細
申立ては本人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。申立書には以下の内容を記載します:
- 本人の基本情報と現在の状況
- 申立ての理由と経緯
- 後見人候補者の情報
- 本人の意思や希望
- 親族の意向
申立て時に必要な費用は、申立手数料800円、登記手数料2,600円、郵便切手代(裁判所により異なる)、鑑定費用(必要な場合、5~10万円程度)です。
審判の流れと期間
申立て後の審判の流れは以下の通りです:
- 書類審査:提出書類の内容確認
- 調査官面談:本人、申立人、後見人候補者との面談
- 医師による鑑定:必要に応じて実施(約半数のケース)
- 審判:後見人の選任と権限の決定
- 審判確定:不服申立期間(2週間)経過後に確定
全体の期間は通常2~4ヶ月程度ですが、鑑定が必要な場合やケースが複雑な場合はより時間がかかることがあります。
費用と期間|成年後見制度利用の現実的な負担
初期費用の内訳
成年後見制度を利用するための初期費用は以下の通りです:
- 申立手数料:800円
- 登記手数料:2,600円
- 郵便切手代:3,000~5,000円
- 医師の診断書費用:3,000~10,000円
- 鑑定費用:5~10万円(必要な場合)
- 司法書士報酬:10~20万円
継続的な費用
制度利用開始後は以下の費用が継続的に発生します:
- 後見人報酬:月額2~6万円(本人の資産状況により決定)
- 後見監督人報酬:月額1~3万円(選任された場合)
- その他管理費用:財産管理に必要な実費
費用軽減の方法
経済的な負担を軽減する方法もあります:
- 法テラスの活用:資力要件を満たす場合、費用の立替制度が利用可能
- 市町村の助成制度:自治体によっては申立費用の助成制度あり
- 親族後見人の選択:親族が後見人になれば報酬は不要(ただし適任性が前提)
任意後見契約の検討|将来への備えとしての選択肢
任意後見のメリット
任意後見制度には以下のようなメリットがあります:
- 自己決定権の尊重:元気なうちに自分で後見人を選べる
- 契約内容の自由度:どのような支援を受けるかを自分で決められる
- 信頼関係の構築:契約時から後見人との関係を築ける
- スムーズな移行:判断能力低下時の手続きが比較的簡単
契約締結の手続き
任意後見契約は以下の手順で締結します:
- 後見人候補者の選定:信頼できる家族、友人、専門家等
- 契約内容の検討:財産管理や身上監護の内容を具体的に決定
- 公正証書の作成:公証役場で公正証書による契約書を作成
- 任意後見登記:法務局で登記手続き
- 契約の開始:判断能力低下時に家庭裁判所に監督人選任の申立て
家族信託との比較
任意後見契約と並んで検討されることの多い家族信託との比較は以下の通りです:
| 任意後見 | 家族信託 | |
|---|---|---|
| 対象 | 全財産・身上監護 | 信託財産のみ |
| 開始時期 | 判断能力低下時 | 契約と同時も可 |
| 監督機関 | 家庭裁判所 | なし(原則) |
| 費用 | 比較的低額 | 設定時は高額 |
よくある質問と専門家回答|成年後見制度の疑問を解消
制度利用に関するQ&A
Q: 認知症でなくても成年後見制度は利用できますか?
A: はい、利用できます。認知症以外にも、知的障害、精神障害、高次脳機能障害など、判断能力に問題があるさまざまな状況で利用可能です。重要なのは医学的診断名ではなく、実際の判断能力の程度です。
Q: 後見人は家族以外でも良いのですか?
A: はい、問題ありません。むしろ近年は、司法書士や社会福祉士などの専門職後見人の選任が増えています。財産額が多い場合や家族関係が複雑な場合は、専門職後見人の方が適している場合もあります。
Q: 一度成年後見を始めたら、やめることはできないのですか?
A: 原則として、本人の判断能力が回復しない限り、成年後見は継続されます。ただし、後見人の交代は可能ですし、本人の状況が改善すれば制度を終了することもできます。
手続きに関するQ&A
Q: 申立てから実際に後見が始まるまでどのくらいかかりますか?
A: 通常は2~4ヶ月程度です。ただし、医師による鑑定が必要な場合や、関係者の意見調整が必要な場合はより時間がかかることがあります。緊急性がある場合は、保全処分により暫定的な措置を取ることも可能です。
Q: 遠方に住んでいても申立てできますか?
A: はい、できます。申立ては本人の住所地の家庭裁判所に行いますが、申立人が遠方に住んでいても問題ありません。司法書士に依頼すれば、代理で手続きを進めることも可能です。
Q: 一度申立てをしたら、取り下げることはできませんか?
A: 申立ての取下げは原則として家庭裁判所の許可が必要です。単に申立人が気が変わったという理由では認められません。ただし、本人の状況に変化があった場合など、合理的な理由があれば取下げが認められることもあります。
費用に関するQ&A
Q: 後見人の報酬は誰が支払うのですか?
A: 本人の財産から支払われます。家庭裁判所が本人の資産状況や後見事務の内容を考慮して報酬額を決定します。親族が後見人の場合、報酬を請求しないこともできます。
Q: 費用が支払えない場合はどうすればよいですか?
A: 法テラスの法律扶助制度や、市町村の助成制度を利用できる場合があります。また、成年後見制度利用支援事業により、後見人報酬を助成している自治体もありますので、まずは市町村の福祉担当窓口にご相談ください。
Q: 司法書士に依頼した場合の費用の相場を教えてください。
A: 申立書類作成の場合、10~20万円程度が一般的です。ただし、事案の複雑さや必要な調査の範囲により異なります。多くの司法書士事務所では、事前に見積もりを提示しますので、複数の事務所で比較検討することをお勧めします。
2026年に向けた行動計画|年明けから始める具体的なステップ
1月にやるべきこと
新年を迎えたら、以下の行動を開始しましょう:
- 医師への相談予約:親の主治医との面談を設定し、現在の認知機能について相談
- 書類収集の開始:戸籍謄本、住民票、財産関係書類の準備
- 専門家への初回相談:司法書士事務所での初回相談予約
- 家族内の意見確認:年末年始の話し合いを受けて、改めて家族の意向を整理
2月〜3月の準備
具体的な手続きに向けて準備を進めます:
- 診断書の取得:家庭裁判所指定様式による診断書の準備
- 財産調査の実施:預貯金、不動産、保険等の詳細調査
- 申立書類の作成:司法書士と協力して申立書類を作成
- 後見人候補者の最終決定:家族後見人か専門職後見人かの最終判断
継続的な見直しポイント
成年後見制度は一度始めたら終わりではありません。定期的な見直しが必要です:
- 年1回の状況確認:本人の状態や生活環境の変化をチェック
- 制度改正への対応:法律改正や運用変更の情報収集
- 家族との情報共有:定期的な家族会議で現状報告と方針確認
- 専門家との相談継続:司法書士等との定期的な相談関係の維持
司法書士に相談するメリット|専門家サポートで安心の手続き
司法書士の役割
成年後見制度において、司法書士は以下のような重要な役割を果たします:
申立書類の作成代行
- 家庭裁判所への申立書類一式の作成
- 財産目録や収支予定表の作成
- 必要書類の取得代行
手続き全体のサポート
- 手続きの流れや必要書類の説明
- 家庭裁判所との連絡調整
- 審判期間中のフォロー
継続的なアドバイス
- 後見開始後の事務手続きサポート
- 後見人としての業務遂行(専門職後見人の場合)
- 制度改正時の情報提供
相談のタイミング
司法書士への相談は、以下のタイミングがお勧めです:
早期相談のメリット
- 本人の意思がはっきりしているうちに方針決定可能
- 任意後見契約等の選択肢を検討できる
- 家族間での合意形成に時間をかけられる
緊急時の対応
- 詐欺被害や不当契約の危険がある場合
- 医療同意が緊急に必要な場合
- 財産管理が困難になった場合
費用対効果の考え方
司法書士への依頼には費用がかかりますが、以下の価値があります:
- 法的トラブルの回避:適切な手続きにより将来のトラブルを防止
- 時間と労力の節約:複雑な手続きを専門家に任せることで家族の負担軽減
- 継続的な安心:専門家との関係継続により長期的なサポートを確保
- 適切な制度選択:個々の状況に最適な制度を選択可能
まとめ:年末年始を活かした成年後見制度の検討
年末年始という特別な時間は、普段離れて暮らす家族が一堂に会し、お互いの変化に気づく貴重な機会です。高齢の親御様の認知機能や判断能力に不安を感じた時こそ、成年後見制度について真剣に考える時期と言えるでしょう。
成年後見制度は、決して「親の自由を奪う制度」ではありません。むしろ、判断能力の低下により生じるさまざまなリスクから親御様を守り、本人らしい生活を継続できるよう支援する制度です。早めの検討と準備により、ご本人にとってもご家族にとってもより良い選択ができるようになります。
今すぐできることから始めましょう:
- 家族での率直な話し合いの機会を作る
- 親御様の現在の状況を客観的に把握する
- 制度の基本的な内容を理解する
- 専門家への相談を検討する
- 必要書類の収集を開始する
司法書士として、皆様が安心して制度を利用できるよう、全力でサポートさせていただきます。年末年始に感じた不安や疑問を一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人

司法書士・行政書士 和田正俊事務所 代表和田 正俊(Wada Masatoshi)
- 滋賀県司法書士会所属 登録番号 滋賀第441号
- 簡裁訴訟代理関係業務 認定番号 第1112169号
- 滋賀県行政書士会所属
登録番号 第13251836号会員番号 第1220号 - 公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート滋賀支部所属
会員番号 第6509213号
後見人候補者名簿 及び 後見監督人候補者名簿 搭載 - 法テラス契約司法書士
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