遺言書を書き換えるタイミングと手続きのポイント
遺言書は一度作成したら終わりではありません。人生の重要な節目や変化に応じて定期的に見直し、必要に応じて書き換えることが大切です。実際、多くの方が初めて作成した遺言書をそのまま維持するのではなく、ライフステージの変化に応じて複数回更新しています。この記事では、遺言書を書き換えるべきタイミングと、その手続きのポイントについて詳しく解説します。
遺言書を書き換えるタイミング
1. 家族構成の変化
家族構成に変化があった場合は、遺言書の内容を見直す必要があります。具体的には以下のようなケースが考えられます:
- 結婚・離婚 - 自分や相続人が結婚・離婚した場合
- 子供の誕生 - 新たに子供や孫が生まれた場合
- 家族の死去 - 遺言書で指定した相続人が亡くなった場合
- 養子縁組 - 養子を迎えた、または養子縁組を解消した場合
- 親族関係の変化 - 家族との関係性が大きく変わった場合
具体例
Aさんは、5年前に作成した遺言書で自宅を長男に相続させると指定していました。しかし、その後長男が結婚し、次男が離婚して経済的に苦しくなりました。こうした家族状況の変化を受けて、Aさんは遺言書を見直し、自宅は長男夫婦に、次男には預金の一部を相続させるよう変更しました。
2. 財産状況の変化
財産状況が大きく変わった場合も、遺言書の更新が必要です:
- 不動産の取得・売却 - 新たに不動産を購入した、または売却した場合
- 事業の開始・終了 - 事業を始めた、または廃業した場合
- 相続や贈与で財産を取得 - 自分自身が相続や贈与で財産を得た場合
- 投資状況の変化 - 株式や投資信託など金融資産の状況が大きく変わった場合
- 債務の発生・返済 - 大きな借入や返済があった場合
特に、遺言書で特定の財産を指定している場合(例:「〇〇銀行の預金口座を長女に相続させる」など)、その財産がなくなったり大幅に減少したりした場合は、遺言の効力に影響が出る可能性があります。
3. 法律の変更
相続に関する法律が変更された場合、既存の遺言書が新しい法律下でも有効かどうかを確認する必要があります:
- 相続法の改正 - 民法の相続に関する規定が変わった場合
- 税制の変更 - 相続税や贈与税の制度が変わった場合
- 遺言書の方式に関する法改正 - 遺言書の作成方法に関する規定が変わった場合
最近の法改正の例
- 2019年7月1日に民法(相続法)が改正され、自筆証書遺言の方式が緩和されました(財産目録はパソコン等で作成可能に)
- 2020年7月10日から自筆証書遺言の法務局保管制度が始まりました
- 2019年7月1日から配偶者居住権の制度が創設されました
4. 受取人の変更
遺産を受け取る予定の人を変更したい場合も、遺言書を書き換えるべきタイミングです:
- 相続人との関係変化 - 特定の相続人との関係が良くなった・悪くなった場合
- 新たな受遺者の追加 - 新たに財産を残したい人ができた場合(例:支援してくれた人、慈善団体など)
- 相続人の状況変化 - 相続人の経済状況や健康状態が変わった場合
- 相続人の能力変化 - 財産管理能力に変化があった場合
5. 定期的な見直し
特別な変化がなくても、3〜5年に一度は遺言書の内容を見直すことをお勧めします。時間の経過とともに状況や考え方が変わることもあるため、定期的な確認が大切です。
遺言書の書き換え手続きのポイント
1. 新しい遺言書の作成
遺言書を書き換える際の基本的な方法は、新しい遺言書を作成することです:
- 撤回文言の記載 - 新しい遺言書の冒頭に「私はこれまでに作成した遺言をすべて撤回し、以下のとおり遺言する」と記載します
- 日付の明記 - 新しい遺言書には必ず作成日を明記します(複数の遺言書が見つかった場合、原則として日付が新しいものが有効)
- 全文の書き直し - 変更箇所だけでなく、全文を新たに作成するのが安全です
- 法的要件の遵守 - 新しい遺言書も法的な形式要件を満たす必要があります
なお、遺言書の一部だけを変更するための「遺言の変更」や「追加遺言」という方法もありますが、混乱を避けるため、基本的には全文を新たに作成することをお勧めします。
2. 遺言書の種類の選択
遺言書を書き換える際には、以下のいずれかの方法で作成します:
遺言書の種類 | 特徴 | 書き換え時のポイント |
---|---|---|
自筆証書遺言 | 全文を自筆で記載し、日付・氏名を記入して押印 |
- 前の遺言書と区別するため日付を明確に - 法務局保管制度の利用を検討 - 財産目録はパソコン等で作成可能 |
公正証書遺言 | 公証役場で公証人が作成(証人2名必要) |
- 前回と同じ公証役場を利用するとスムーズ - 以前の遺言を撤回する旨を明記 - 証人は前回と同じでも異なってもよい |
秘密証書遺言 | 内容を秘密にして公証人に提出 |
- あまり一般的ではない - 前の遺言を撤回する旨を明記 - 封をして公証役場に持参 |
書き換えの際に遺言書の種類を変更することも可能です。例えば、以前は自筆証書遺言だったが、今回は公正証書遺言にするといった変更も可能です。
3. 専門家への相談
遺言書の書き換えには、法律の専門知識が必要です。以下のような専門家に相談することで、より確実な遺言書の作成が可能になります:
- 司法書士 - 遺言書の作成支援、相続手続きのアドバイス
- 弁護士 - 複雑な相続案件、法的なアドバイス
- 行政書士 - 遺言書の作成支援
- 税理士 - 相続税対策のアドバイス
専門家に相談することで、以下のようなメリットがあります:
- 法的に有効な遺言書の作成をサポートしてもらえる
- 内容の矛盾や問題点を指摘してもらえる
- 税金面での最適化を図れる
- 最新の法律に対応した内容にできる
4. 証人の確保
公正証書遺言や秘密証書遺言を作成する場合は、証人が必要です:
- 証人の要件 - 証人は成人で判断能力があり、遺言の内容に利害関係のない第三者である必要があります
- 証人になれない人 - 未成年者、推定相続人、受遺者とその配偶者・直系血族は証人になれません
- 証人の人数 - 公正証書遺言と秘密証書遺言では2名の証人が必要です
公証役場では、依頼すれば証人を紹介してもらえる場合もあります(有料)。
5. 旧遺言書の処理
新しい遺言書を作成した後は、旧遺言書の処理も重要です:
- 自筆証書遺言の場合 - 破棄するか、「無効」と明記して保管
- 公正証書遺言の場合 - 原本は公証役場に保管されているため処分できませんが、手元にある謄本には「無効」と明記しておくとよい
- 法務局保管の自筆証書遺言の場合 - 新しい遺言書も法務局保管制度を利用すると安心
古い遺言書を残しておくと、相続時に混乱を招く可能性があるため、適切な処理が重要です。
6. 保管場所の確認
新しい遺言書を作成したら、安全な場所に保管し、その所在を信頼できる人に知らせておくことが重要です:
- 自筆証書遺言の保管場所 - 法務局保管制度を利用するか、金融機関の貸金庫、自宅の金庫など
- 公正証書遺言の場合 - 原本は公証役場で保管、謄本を自分で保管
- 保管場所の周知 - 遺言執行者や信頼できる親族に保管場所を知らせておく
遺言書が見つからなければ効力を発揮できないため、確実に発見される方法で保管することが大切です。
書き換え時の注意点
1. 遺留分への配慮
遺言書を書き換える際には、法定相続人の遺留分にも配慮する必要があります。遺留分とは、一定の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)に保障されている最低限の相続分のことです。遺留分を侵害する内容の遺言書は、遺留分権利者から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
2. 相続人への配慮
遺言書の内容を大きく変更する場合、特に特定の相続人の相続分を減らす場合は、相続人間のトラブルの原因になる可能性があります。可能であれば、変更の理由を別途説明書として残しておくことも検討しましょう。
3. 遺言執行者の確認
遺言書を書き換える際は、遺言執行者の指定も見直しましょう。以前指定した遺言執行者が高齢になっていたり、関係が変わっていたりする場合は、新たな遺言執行者を指定することも検討してください。
よくある質問
Q: 遺言書を書き換えるのにかかる費用はどのくらいですか?
A: 自筆証書遺言の場合は基本的に費用はかかりませんが、法務局保管制度を利用する場合は手数料(3,900円)がかかります。公正証書遺言の場合は、遺産の金額や内容によって変わりますが、基本的に数万円〜十数万円程度の公証人手数料がかかります。専門家に依頼する場合は別途報酬が必要です。
Q: 一部だけを変更することはできますか?
A: 法律上、一部だけの変更も可能ですが、実務上は混乱を避けるため、全体を新たに作成することが推奨されます。特に自筆証書遺言の場合、加筆や修正は避け、新たに作成するのが安全です。
Q: 遺言書を書き換えたことを相続人に伝えるべきですか?
A: 法律上、遺言者に遺言内容を相続人に伝える義務はありません。ただし、遺言の存在自体を知らせておくことで、遺言書の発見漏れを防ぐことができます。内容を知らせるかどうかは、家族関係や遺言の内容によって判断するとよいでしょう。
Q: 複数の遺言書が見つかった場合はどうなりますか?
A: 原則として、日付が新しい遺言書が有効となります(民法第1023条)。ただし、内容が矛盾しない場合は、古い遺言書の内容も有効となる可能性があります。混乱を避けるため、新しい遺言書には「これまでの遺言をすべて撤回する」旨を明記することが重要です。
まとめ
遺言書は、人生の変化に応じて定期的に見直し、必要に応じて書き換えることが重要です。以下のポイントを押さえて遺言書の見直しを行いましょう:
- 変化に応じた見直し - 家族構成や財産状況の変化、法律の改正などに対応する
- 定期的な確認 - 3〜5年に一度は内容を確認する
- 新しい遺言書の作成 - 変更する場合は全文を新たに作成する
- 専門家への相談 - 法的な効力を確保するため、専門家のアドバイスを受ける
- 安全な保管 - 新しい遺言書は安全に保管し、所在を信頼できる人に知らせる
遺言書は、あなたの大切な財産を希望通りに引き継ぐための重要な手段です。人生の変化に合わせて適切に更新することで、常に最新の意思を反映した遺言書を維持しましょう。
当事務所では、遺言書の作成・見直しに関するご相談も承っております。変更すべきか迷っている方も、お気軽にご相談ください。
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