あなたの大切な人に財産を:予備的遺言のすすめ
遺言書を作成する主な目的は、自分の大切な人に財産を確実に引き継ぐことです。しかし、人生には予測できない出来事が起こりうるもの。指定した相続人が何らかの理由で遺産を受け取れなくなってしまうケースも少なくありません。そんな不測の事態に備えるのが「予備的遺言」です。本記事では、予備的遺言の重要性とその作成方法について詳しく解説します。
予備的遺言とは
予備的遺言(代替遺贈とも呼ばれます)とは、遺言者が指定した相続人や受遺者が何らかの理由で遺産を受け取れない場合に備えて、次の受取人を指定しておく遺言のことです。例えば「長男Aに自宅を相続させる。ただし、Aが相続できない場合は次男Bに相続させる」というように、代替となる相続人をあらかじめ指定しておきます。
予備的遺言が必要となる主なケースは以下の通りです:
- 相続人が遺言者よりも先に亡くなった場合
- 相続人が相続を放棄した場合
- 相続人が相続欠格事由(遺言者を殺害したなど)に該当した場合
- 遺言の条件が成就しなかった場合(条件付き遺言の場合)
事例:予備的遺言が役立ったケース
Aさん(75歳)は、自宅を長男に相続させる遺言を作成していました。しかし、不幸にも長男はAさんより先に交通事故で亡くなってしまいました。Aさんの遺言には予備的遺言が含まれており「長男が相続できない場合は長女に相続させる」と記載されていたため、スムーズに長女が自宅を相続することができました。予備的遺言がなければ、自宅は法定相続分に従って分割相続され、長女が単独で相続することは難しかったでしょう。
予備的遺言の必要性
不測の事態への備え
人生には予測できない出来事が数多くあります。特に高齢になるにつれて、遺言者より先に相続人が亡くなる可能性も高まります。また、相続人が相続を放棄するケースもあります(負債が多い場合など)。予備的遺言を用意することで、こうした不測の事態に備えることができます。
予備的遺言がない場合、第一順位の相続人が相続できないと、以下のような結果になります:
- 法定相続人間で分割される可能性がある
- 遺言者の意思とは異なる相続が行われる
- 家族間で争いが生じる可能性がある
家族間の争いを防ぐ
遺産分配に関する家族間の争いは珍しくありません。特に、遺言で指定された相続人が相続できなくなった場合、「遺言者が生きていたら誰に相続させたかったのか」について意見が分かれ、トラブルに発展することがあります。
予備的遺言があれば、こうした議論の余地を残さず、遺言者の意思を明確に示すことができます。これにより、家族間の不必要な争いを未然に防ぐことができます。
法的な安定性の確保
予備的遺言は、相続の法的安定性を高めます。遺言者の意思が明確に記載されていることで、相続手続きがスムーズに進み、法的な問題が生じるリスクを低減します。また、裁判所による解釈の余地が少なくなるため、遺言者の意思が確実に実現される可能性が高まります。
予備的遺言の法的根拠と効果
予備的遺言(代替遺贈)は、民法第994条に規定されています。「遺贈は、受遺者が遺言者の死亡以前に死亡したときは、その効力を生じない。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う」という条文がその根拠となります。
つまり、通常は受遺者が遺言者より先に死亡した場合、その遺贈は無効になりますが、遺言者が予備的遺言を残していれば、その意思に従って次の受遺者に遺贈されることになります。
予備的遺言の効果は以下の通りです:
- 第一順位の相続人・受遺者が相続できない場合に、自動的に次の相続人・受遺者に財産が承継される
- 遺言者の意思が明確に示されるため、相続人間の争いを防止できる
- 相続手続きがスムーズに進行する
予備的遺言の種類と書き方
予備的遺言の主な種類
予備的遺言には、主に以下のような種類があります:
種類 | 内容 | 記載例 |
---|---|---|
単純な代替指定 | 特定の相続人が相続できない場合に、代わりの相続人を指定 | 「長男Aに自宅を相続させる。ただし、Aが相続できない場合は長女Bに相続させる」 |
複数順位の指定 | 複数の代替相続人を順番に指定 | 「長男Aに自宅を相続させる。Aが相続できない場合は長女B、Bも相続できない場合は次男Cに相続させる」 |
条件付き代替指定 | 特定の条件が満たされない場合に、代替相続人を指定 | 「長男Aが私の介護をした場合は自宅を相続させる。そうでない場合は長女Bに相続させる」 |
グループ指定 | 相続人グループ全体が相続できない場合の代替を指定 | 「預金は子どもたち全員で均等に分けること。子どもたち全員が相続できない場合は甥・姪に均等に分けること」 |
予備的遺言の書き方のポイント
予備的遺言を作成する際の主なポイントは以下の通りです:
- 明確な表現を使用する - 誰に何を相続させるのか、明確かつ具体的に記載する
- 条件を明確にする - 「相続できない場合」とはどのような状況を指すのか具体的に記載する
- 順序を明確にする - 複数の代替相続人を指定する場合は、優先順位を明確にする
- 全ての財産に対応する - 主要な財産だけでなく、全ての財産について予備的指定を検討する
予備的遺言の記載例
基本形
「私は、所有する自宅(滋賀県大津市瀬田5丁目33番4号の建物)を長男山田太郎に相続させる。ただし、長男山田太郎が私より先に死亡した場合、または相続を放棄した場合は、長女山田花子に相続させる。」
複数順位指定の場合
「私は、所有する預金口座(○○銀行△△支店普通口座1234567)の預金を長男山田太郎に相続させる。ただし、長男山田太郎が相続できない場合は長女山田花子に、長女山田花子も相続できない場合は、孫の山田一郎に相続させる。」
予備的遺言の作成方法
専門家への相談
予備的遺言を含む遺言書を作成する際には、法律の専門家に相談することをお勧めします。専門家のサポートを受けることで、以下のようなメリットがあります:
- 法的に有効な表現の使用 - 法的に明確で争いを生じさせない表現を使用できる
- 想定外のケースへの対応 - 専門家は様々なケースを想定した助言ができる
- 法律や税制の最新情報 - 相続法や税法の最新の情報に基づいたアドバイスを受けられる
- 公正証書遺言の作成支援 - 公正証書遺言の作成をスムーズに進められる
相談先としては、司法書士、弁護士、行政書士などが適しています。特に予備的遺言のような特殊な内容を含む場合は、相続に詳しい専門家を選ぶことが重要です。
遺言書の形式選択
予備的遺言を含む遺言書は、以下のいずれかの形式で作成することができます:
- 公正証書遺言 - 公証人が作成する最も安全確実な形式(証人2名必要)
- 自筆証書遺言 - 遺言者が全文を自筆で書く形式(法務局保管制度の利用も検討)
- 秘密証書遺言 - 内容を秘密にしたまま公証人に提出する形式
予備的遺言のような複雑な内容を含む場合は、特に公正証書遺言がお勧めです。公証人のチェックを受けることで、表現の曖昧さを排除し、法的に有効な遺言書を作成することができます。
定期的な見直し
予備的遺言を含む遺言書は、定期的に見直すことが重要です。以下のようなタイミングで見直しを検討しましょう:
- 家族構成の変化時 - 結婚、離婚、出産、死亡など
- 財産状況の大きな変化時 - 不動産の取得・売却、事業の開始・終了など
- 相続に関する法律の改正時 - 相続法や税法の変更があった場合
- 定期的な見直し - 3〜5年ごとの定期的な確認
特に指定した相続人や代替相続人の状況が変化した場合は、速やかに見直しを行うことが重要です。
予備的遺言を作成する際の注意点
法的な制限
予備的遺言を作成する際には、以下のような法的制限にも注意が必要です:
- 遺留分の尊重 - 遺留分権利者(配偶者、子、直系尊属)の遺留分を侵害する遺言は、遺留分減殺請求の対象となる可能性がある
- 公序良俗に反する条件の禁止 - 法律や公序良俗に反する条件を付けることはできない
- 過度に複雑な条件の回避 - 実現が困難な複雑な条件は、遺言の実現を妨げる可能性がある
相続人への説明
予備的遺言の存在を相続人に事前に伝えるかどうかは、家族関係や状況によって判断が分かれるところです。以下のようなメリット・デメリットを考慮して決定するとよいでしょう:
事前に伝えるメリット
- 相続人の心構えができる
- 遺言者の意図を直接説明できる
- 将来の争いを未然に防げる可能性がある
事前に伝えるデメリット
- 相続人間の関係が悪化する可能性がある
- 遺言者への圧力が生じる可能性がある
- 遺言内容の変更を求められる可能性がある
実現可能性の確認
予備的遺言が実際に実現可能かどうかも重要なポイントです。例えば、「AがBの介護をした場合にCの財産を相続させる」といった条件付きの予備的遺言は、誰がその条件の成就を判断するのかという問題が生じる可能性があります。
実現可能性を高めるためには、以下のポイントに注意しましょう:
- 条件は客観的に判断できるものにする
- 条件の判断者を明確にしておく(例:遺言執行者に判断を委ねるなど)
- 複雑すぎる条件や多段階の条件は避ける
具体的な事例と解決策
事例1:先に亡くなった子の子どもへの配慮
状況:Aさん(80歳)には子ども3人(B、C、D)がいます。Aさんは財産を3人で均等に分けたいと考えていましたが、長男Bが先に亡くなり、Bには子ども2人(E、F)がいました。
問題:通常の遺言だと、Bが先に亡くなった場合、CとDで分けることになり、Bの子ども(E、F)には何も残らない可能性があります。
予備的遺言による解決:「私の財産は子ども3人(B、C、D)で均等に3分の1ずつ相続させる。ただし、Bが相続できない場合は、Bの取り分をBの子ども(E、F)で均等に分けること」と予備的遺言を作成。これにより、Bが先に亡くなった場合でも、Bの子どもたちに公平に分配されます。
事例2:事業承継と予備的遺言
状況:経営者Gさんは、会社の株式を長男Hに相続させ、事業を継がせたいと考えていました。
問題:しかし、Hに万一のことがあった場合や、Hが事業継承を望まない場合の対策が必要です。
予備的遺言による解決:「会社株式は長男Hに相続させる。ただし、Hが相続できない場合、または会社経営を引き継がない場合は、次男Iに相続させる。Iも相続できない場合は、娘Jに相続させる」という予備的遺言を作成。これにより、事業承継の安定性が高まります。
まとめ
予備的遺言は、不測の事態に備えて大切な財産を希望する人に確実に引き継ぐための重要なツールです。以下のポイントを押さえて作成しましょう:
- 明確な指示を記載する - 誰に、何を、どのような条件で相続させるのかを明確に
- 専門家に相談する - 法的に有効な遺言書作成のために専門家のサポートを受ける
- 実現可能性を確認する - 条件は現実的で実現可能なものにする
- 定期的に見直す - 家族構成や財産状況の変化に応じて定期的に更新する
- 公正証書遺言の利用を検討する - 特に複雑な予備的遺言は公正証書遺言が安全
予備的遺言を含む適切な遺言書の作成は、あなたの大切な人に財産を確実に引き継ぐための最良の方法の一つです。この記事が、皆様の遺言作成の参考になれば幸いです。
当事務所では、予備的遺言を含む遺言書作成のサポートも行っております。ご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
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