遺言能力の確認:物忘れが出てきたときの対策と知能評価

遺言能力の確認:物忘れが出てきたときの対策と知能評価

遺言能力の確認:物忘れが出てきたときの対策と知能評価

遺言書は、あなたの意志を後世に伝えるための重要な文書です。しかし、年齢を重ねるにつれて物忘れが増えてきたり、認知機能に変化が見られたりすると、遺言能力に疑問が生じることがあります。遺言書が後に無効と判断されるリスクを避けるためにも、遺言能力の確認は非常に重要です。この記事では、遺言能力の確認方法、物忘れが出てきたときの対策、そして知能評価の方法について詳しく解説します。

遺言能力とは

遺言能力とは、遺言書を作成するために必要な精神的な能力を指します。民法では、15歳以上であれば遺言書を作成できると定められていますが、年齢に関係なく、十分な判断能力を持っていることが求められます。

具体的に遺言能力があるとされるためには、以下の要素を理解・判断できることが必要です:

  • 自分の財産の内容と価値 - 所有している不動産、預金、有価証券などの概要を把握している
  • 法定相続人の存在 - 自分の相続人が誰であるかを理解している
  • 遺言の効果 - 遺言によって財産がどのように分配されるかを理解している
  • 合理的な判断能力 - 遺言内容について自分の意思で合理的に判断できる

法律上の遺言能力

民法第963条では、次の人は遺言をすることができないとされています:

  1. 15歳未満の者
  2. 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者(ただし、その能力が一時回復した時に遺言することは可能)

重要なのは、認知症の診断があっても、必ずしも遺言能力がないとは判断されないということです。認知症には程度の差があり、軽度の認知症であれば、遺言能力を有していると判断されることも少なくありません。また、認知症でも症状には波があり、判断能力が比較的良好な時間帯(ルシッドインターバル)に作成された遺言書は有効と認められる場合があります。

物忘れが出てきたときの対策

早期の遺言作成

物忘れが始まる前に、早めに遺言書を作成することが最も重要です。健康な状態で遺言書を作成することで、後に遺言能力について争われるリスクを大幅に減らすことができます。特に以下のような方は、早めの対応をお勧めします:

  • 高齢者(特に75歳以上)
  • 家族歴に認知症がある方
  • 物忘れの兆候が見られ始めた方
  • 複雑な家族関係や財産状況がある方
  • 相続で争いが予想される方

早期の遺言作成には以下のようなメリットがあります:

  • 遺言能力について後日争われるリスクの低減
  • 精神的な安心感を得られる
  • 十分な時間をかけて内容を検討できる
  • 相続に関する家族との対話の機会となる

専門家への相談

遺言書の作成には、法律の専門知識が必要です。特に物忘れが気になり始めた段階では、以下のような専門家に相談することをお勧めします:

  • 司法書士・行政書士 - 遺言書の作成支援、相続手続きの助言
  • 弁護士 - 法的なアドバイス、複雑な相続案件
  • 医師(精神科・神経内科) - 認知機能の評価、診断書の作成

専門家のサポートを受けることで、法的に有効な遺言書を作成できるだけでなく、遺言能力があることの証明にもつながります。特に公正証書遺言の場合、公証人が遺言能力を確認する過程があり、より確実性が高まります。

遺言書の形式選択

物忘れが気になり始めた方は、特に遺言書の形式選択が重要です。主な形式とその特徴は以下の通りです:

遺言の形式物忘れがある方への適性遺言能力の証明しやすさ
公正証書遺言◎ 最適
公証人が遺言能力を確認
◎ 非常に高い
公証人と証人2名が関与
自筆証書遺言
(法務局保管)
○ 適している
法務局で本人確認あり
○ 比較的高い
法務局提出時の状態が記録される
自筆証書遺言
(自己保管)
△ あまり適さない
証人がいない
△ 低い
作成時の状況を証明しにくい
秘密証書遺言○ 適している
公証人が関与
○ 比較的高い
公証人と証人が関与

物忘れが気になり始めた方には、公正証書遺言が最もお勧めです。公証人が対話を通じて遺言能力を確認し、その過程が記録に残るためです。

知能評価の方法

医師による診断

遺言能力を客観的に証明するためには、医師による診断が有効です。特に遺言書作成前後に診断を受けておくと、遺言能力の証明に役立ちます。

診断を受ける医師の選択:

  • 精神科医・神経内科医 - 認知機能の専門的評価が可能
  • かかりつけ医 - 日常的な状態を把握している

医師に確認してもらいたいポイント:

  • 遺言能力(判断能力)の有無
  • 認知機能の程度
  • 遺言の内容を理解し判断する能力があるか

診断結果は「診断書」として発行してもらい、遺言書とともに保管しておくことで、後に遺言能力について争いが生じた場合の重要な証拠となります。

認知機能検査(心理テスト)

認知機能を客観的に評価するために、以下のような検査が用いられます:

主な認知機能検査

  • MMSE(Mini-Mental State Examination)
    30点満点の質問形式の検査。時間や場所の見当識、計算、記憶などを評価。24点以上であれば、通常は問題ないとされる。
  • HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)
    30点満点の日本人向け検査。年齢や場所の確認、言葉の記憶、計算などを評価。20点以上であれば、通常は問題ないとされる。
  • MoCA-J(日本語版モントリオール認知評価)
    軽度認知障害を検出するのに優れた30点満点の検査。26点以上が正常とされる。

これらの検査は、遺言能力を直接評価するものではありませんが、認知機能の状態を客観的に示す指標となります。検査結果だけでなく、医師による総合的な判断が重要です。

公証人による確認

公正証書遺言を作成する場合、公証人は遺言者の遺言能力を確認する役割も担います。公証人は以下のような方法で遺言能力を確認します:

  • 対話を通じた判断能力の確認
  • 遺言内容の理解度チェック
  • 遺言者の状態の観察
  • 必要に応じて医師の診断書の確認

公証人が遺言能力に疑問を持った場合、遺言書の作成を断る場合もあります。逆に言えば、公正証書遺言が作成されたということは、公証人が遺言能力を認めたということでもあり、遺言能力の証明としての価値が高いと言えます。

遺言書の有効性を保つための注意点

証人の確保

遺言書作成時に信頼できる証人を確保することは、遺言能力を証明する上で非常に重要です。特に以下のような点に注意しましょう:

  • 証人の選定 - 遺言者の遺言能力を客観的に証言できる人(相続人や受遺者は証人になれないことに注意)
  • 証人の記録 - 証人には遺言者の状態について記録を残してもらう
  • ビデオ撮影の検討 - 遺言書作成過程をビデオ録画することで、遺言能力の証拠となる(ただし、プライバシーに配慮)

公正証書遺言の場合は証人が2名必要ですが、自筆証書遺言の場合は証人は法的に必須ではありません。しかし、物忘れが気になる方の場合は、自筆証書遺言でも第三者に立ち会ってもらい、遺言能力を証言できるようにしておくことが望ましいでしょう。

定期的な見直し

遺言書は一度作成して終わりではなく、定期的に見直すことが重要です。特に物忘れが気になり始めた方は、認知機能が低下する前に見直しを検討しましょう。

見直しのタイミング:

  • 家族構成の変化(結婚、出産、離婚、死亡など)
  • 財産状況の大きな変化
  • 認知機能の変化を感じたとき
  • 1〜3年ごとの定期的な見直し

見直しの結果、内容を変更する必要がある場合は、新たに遺言書を作成します。この際も、遺言能力があることを証明するための対策(医師の診断、証人の確保など)を忘れないようにしましょう。

遺言能力を補強する記録の保存

遺言能力を証明するための資料を保存しておくことも重要です:

  • 医師の診断書 - 遺言書作成前後の診断結果
  • 認知機能検査の結果 - MMSE、HDS-Rなどの検査結果
  • 日常生活の記録 - 日記や家計簿など、判断能力を示す日常的な記録
  • 証人の証言記録 - 遺言書作成時の状況を記録した証言
  • 遺言書作成過程のメモ - 遺言内容を検討した過程のメモや資料

これらの資料は、遺言書とともに保管しておくことで、後に遺言能力について争いが生じた場合の証拠となります。

専門家からのアドバイス

「物忘れが気になり始めた方の遺言書作成では、『早め、慎重に、記録を残す』がキーワードです。早めに行動し、専門家のサポートを受けながら慎重に進め、遺言能力の証拠となる記録をしっかり残しておくことが重要です。公正証書遺言と医師の診断書の組み合わせが、最も確実な方法と言えるでしょう。」

まとめ

遺言書の作成と遺言能力の確認は、物忘れが気になり始めた方にとって特に重要な課題です。以下のポイントを押さえて準備を進めましょう:

  1. 早期に行動する - 物忘れが進行する前に、早めに遺言書を作成する
  2. 専門家に相談する - 法律や医療の専門家のサポートを受ける
  3. 公正証書遺言を選ぶ - 最も遺言能力の証明がしやすい形式を選ぶ
  4. 医師の診断を受ける - 遺言能力を客観的に証明するための診断書を取得する
  5. 証人を確保する - 遺言能力を証言できる第三者の立会いを得る
  6. 記録を残す - 遺言能力の証拠となる資料を保存する
  7. 定期的に見直す - 状況の変化に応じて内容を更新する

物忘れが気になり始めても、適切な対応をとれば法的に有効な遺言書を作成することは十分可能です。この記事を参考に、ご自身や大切な方の遺言書作成の準備を進めていただければ幸いです。

当事務所では、遺言能力に不安のある方の遺言書作成もサポートしています。医師との連携や公証役場への同行など、トータルでのサポートも可能ですので、お気軽にご相談ください。


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