入院中でも安心、遺言書を作成するためのポイント
入院中の方にとって、遺言書の作成は将来の不安を軽減し、安心して療養生活を送るための重要なステップです。特に長期入院や重い病気と診断された場合、家族の将来や財産の行方について考える機会が増えるかもしれません。この記事では、入院中でも安心して遺言書を作成するためのポイントを詳しく解説します。
入院中の遺言書作成の重要性
入院中は健康状態が不安定な場合が多く、将来への不安を感じることがあります。このような時に遺言書を作成することには、以下のようなメリットがあります:
- 精神的な安心感 - 財産の行方を自分で決めておくことで、心の負担が軽減されます
- 家族間のトラブル防止 - 遺産分割に関する争いを未然に防ぐことができます
- 特定の人への配慮 - 法定相続とは異なる形で、特に配慮したい人に財産を遺すことができます
- 社会貢献 - 寄付など社会貢献のための遺贈も可能です
医師からのアドバイス
「遺言書の作成は、患者さんの精神的な安定にも寄与することがあります。不安や心配事が減ることで、治療に前向きに取り組めるケースも少なくありません。ただし、体調や判断能力に配慮して進めることが重要です。」
遺言書の種類と特徴
日本の民法では、遺言書には主に以下の3種類があります。それぞれの特徴を理解し、状況に合った形式を選びましょう。
1. 自筆証書遺言
すべての文章と日付を自分で書き、署名・押印する遺言書です。
メリット:
- 費用がほとんどかからない
- いつでも自分のペースで作成できる
- 内容を秘密にできる
デメリット:
- 形式不備で無効になるリスクがある
- 紛失・改ざんのリスクがある
- 家庭裁判所での検認手続きが必要(法務局保管制度を利用する場合を除く)
入院中の方向けポイント:
自分で文書を書くことが体力的に難しい場合は、短時間で区切って作成するか、他の遺言形式を検討しましょう。手が震える場合などは、公正証書遺言の方が安心です。
2. 公正証書遺言
公証人が遺言者の口述を筆記し、証人2名の立会いのもとで作成する遺言書です。
メリット:
- 法的に最も安全確実な方法
- 形式不備による無効のリスクが低い
- 原本は公証役場で保管されるため紛失の心配がない
- 検認手続きが不要
デメリット:
- 公証人手数料がかかる(財産額により異なる)
- 証人2名が必要
- 公証役場に行く必要がある(ただし出張も可能)
入院中の方向けポイント:
入院中でも公証人に病室まで来てもらうことが可能です(出張手数料が追加)。医師の許可を得て、体調の良い時間帯に設定しましょう。
3. 秘密証書遺言
内容を秘密にしたまま、封をした遺言書を公証人と証人の前に提出し、確認を受ける方法です。
メリット:
- 内容を秘密にできる
- 自筆でなくてもよい(パソコン作成可)
デメリット:
- 公証役場に行く必要がある
- 検認手続きが必要
- あまり一般的ではない
入院中の方向けポイント:
入院中に作成するには手続きが複雑なため、自筆証書遺言か公正証書遺言の方が現実的です。
入院中の遺言書作成の具体的なステップ
1. 遺言能力の確認
遺言書が有効であるためには、遺言者が「遺言能力」を有していることが必要です。具体的には以下の点が重要です:
- 15歳以上であること
- 判断能力があること(認知症などで判断能力が著しく低下していないこと)
- 自分の意思で遺言内容を決定できること
特に入院中は、薬の影響や病状により判断能力が変動することがあります。体調の良い時に医師に相談し、必要に応じて「遺言能力がある」という診断書を作成してもらうことも検討しましょう。
2. 遺言書の内容を検討する
遺言書に記載する内容を整理しましょう。主な項目は以下の通りです:
- 財産目録 - 不動産、預貯金、有価証券、貴金属、美術品など
- 相続人リスト - 法定相続人(配偶者、子、親など)を確認
- 財産の分配方法 - 誰にどの財産を相続させるか
- 特定の遺贈 - 相続人以外の人への財産の贈与
- 付言事項 - 相続人への伝言、お墓や葬儀についての希望など
入院中は、家族に預金通帳や権利証などを持ってきてもらい、内容を確認すると良いでしょう。
3. 専門家に相談する
遺言書の作成には法律の専門知識が必要です。以下のような専門家に相談することをお勧めします:
- 司法書士 - 遺言書の作成支援、相続手続きのアドバイス
- 弁護士 - 複雑な相続案件、争族の可能性がある場合
- 税理士 - 相続税の対策、財産評価
- 行政書士 - 遺言書作成支援
多くの専門家は病院への出張相談にも対応しているので、入院中でも相談が可能です。
4. 遺言書の作成
選んだ形式に応じて遺言書を作成します。
【自筆証書遺言の場合】
- 全文を自筆で書く(パソコン不可)
- 作成年月日を記入
- 署名・押印する
- 財産目録は自筆でなくても良い(通帳や権利証のコピーを添付することも可能)
2019年1月13日から法務局での自筆証書遺言書保管制度が始まりました。この制度を利用すると、検認手続きが不要になり、紛失・改ざんのリスクを減らせます。
【公正証書遺言の場合】
- 公証役場に予約を入れる(病院への出張を依頼する場合はその旨を伝える)
- 遺言の内容を事前に考えておく(公証人と打ち合わせすることも可能)
- 証人2名を手配する(受遺者・相続人とその配偶者は不可)
- 必要書類を準備する(身分証明書、印鑑、財産の証明書類など)
- 指定日時に公証人と証人立会いのもと遺言を作成
5. 保管と見直し
作成した遺言書は適切に保管し、必要に応じて見直しましょう。
- 自筆証書遺言:安全な場所に保管するか、法務局保管制度を利用
- 公正証書遺言:原本は公証役場で保管、謄本を自分で保管
- 定期的な見直し:状況の変化に応じて内容を更新(新しい遺言書を作成すると古いものは自動的に無効に)
入院中の遺言書作成における特別な配慮
1. 病院との調整
遺言書作成のために以下の点を病院と調整しましょう:
- 主治医に遺言書作成の意向を伝え、体調面での助言を得る
- 公証人や専門家の訪問予定を看護師に伝えておく
- 病室での作成が難しい場合、面談室などの使用を相談する
- プライバシーが確保できる時間帯を選ぶ
2. 証人の手配
公正証書遺言には2名の証人が必要です。入院中は以下の点に注意して手配しましょう:
- 証人は相続人・受遺者やその配偶者以外から選ぶ(友人、遠い親戚など)
- 病院の医師や看護師に依頼することも可能(ただし業務に支障がない範囲で)
- 公証役場に相談すれば、公証役場の事務員などを証人として手配してくれる場合もある
3. 健康状態への配慮
入院中は体調が変動しやすいため、以下の点に配慮しましょう:
- 体調の良い時間帯を選んで遺言書作成の時間を設定する
- 疲れやすい場合は、複数回に分けて手続きを進める
- 薬の影響が少ない時間帯を選ぶ
- 必要に応じて医師の立会いや診断書を準備する
専門家からのアドバイス
「入院中の方の遺言書作成では、本人の体調と意思確認が特に重要です。公正証書遺言は手続きが確実ですが、体調が優れない場合は、まず自筆で簡単なメモを残しておき、体調が回復してから正式な遺言書を作成するという二段階の方法も有効です。」
よくある質問と回答
Q: 入院中でも公証人は病室まで来てくれますか?
A: はい、公証人は依頼があれば病室まで出張して公正証書遺言を作成することができます。ただし、出張手数料が別途かかります。事前に公証役場に相談し、病院側の許可も得ておく必要があります。
Q: 遺言書作成の費用はどのくらいかかりますか?
A: 自筆証書遺言はほぼ費用がかかりません(法務局保管を利用する場合は手数料がかかります)。公正証書遺言の場合、遺産の金額や内容によって変わりますが、基本的に数万円〜十数万円程度の公証人手数料がかかります。専門家に依頼する場合は別途報酬が必要です。
Q: 入院中で体調があまり良くない場合でも遺言書は作れますか?
A: 判断能力があれば作成可能です。ただし、後日「判断能力がなかった」と争われるリスクを減らすため、医師の診断書を取得しておくことをお勧めします。また、体調の良い時間帯を選び、必要に応じて複数回に分けて進めることも検討しましょう。
Q: 一度作った遺言書を後から変更することはできますか?
A: はい、可能です。新しい遺言書を作成すれば、自動的に古い遺言書は効力を失います。ただし、新しい遺言書も法的要件を満たしている必要があります。一部分だけを変更したい場合も、全体を書き直す必要があります。
まとめ
入院中の遺言書作成は、将来への不安を軽減し、大切な人々の将来を守るための重要なステップです。以下のポイントを押さえて準備を進めましょう:
- 体調と判断能力を考慮 - 体調の良い時に、判断能力がある状態で作成する
- 適切な遺言形式を選択 - 状況に応じて自筆証書遺言か公正証書遺言を選ぶ
- 専門家に相談 - 司法書士や弁護士などの専門家のサポートを受ける
- 病院と調整 - 医師や看護師と相談し、適切な環境を整える
- 内容を慎重に検討 - 財産目録の作成と分配方法を明確にする
入院中という状況でも、適切な準備と専門家のサポートがあれば、法的に有効な遺言書を作成することは十分に可能です。遺言書の作成によって、自分の意思を明確に残し、大切な人々の将来に安心を届けることができます。
当事務所では、入院中の方の遺言書作成サポートも行っております。病院への出張相談も可能ですので、お気軽にご相談ください。
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