生前贈与で自宅不動産を次世代に引き継ぐ方法
生前贈与は、親から子供や孫など次世代に財産を引き継ぐための有効な手段です。特に自宅不動産の贈与は、相続税対策としても注目されています。本記事では、生前贈与を通じて自宅不動産を次世代に引き継ぐ方法について詳しく解説します。
生前贈与の基本
生前贈与とは、贈与者が生きている間に財産を受贈者に譲渡することを指します。これにより、相続時に発生する相続税の負担を軽減することが可能です。贈与には贈与税がかかる場合がありますが、一定の条件を満たすことで非課税枠を利用することができます。
贈与税の基本
- 基礎控除:年間110万円まで非課税
- 税率:超過部分に対して10%〜55%の累進税率が適用
- 申告期間:贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日まで
自宅不動産の生前贈与のメリット
自宅不動産を生前贈与することで、相続税の節税効果が期待できます。また、贈与者が生きている間に財産の移転を完了させることで、受贈者が早期に不動産を活用できるというメリットもあります。
税制面のメリット
- 相続財産の減少により相続税負担を軽減
- 贈与後の不動産価値上昇分が相続税の課税対象から除外される
- 計画的な贈与により贈与税の負担を分散できる
- 特例制度を活用した税負担の軽減
非税制面のメリット
- 早期に資産を次世代に移転できる
- 生前に財産管理の指導ができる
- 将来の相続争いを防止できる
- 家族の住宅事情を早期に安定させられる
贈与契約の締結
贈与契約は、贈与者と受贈者の間で結ばれる契約です。これにより、贈与者は自宅不動産を無償で受贈者に譲渡します。契約書を作成し、法的に有効な形で贈与を行うことが重要です。
贈与契約書の作成ポイント
- 当事者の情報:贈与者と受贈者の氏名、住所、生年月日
- 贈与する不動産の詳細:所在地、種類、面積など(登記簿謄本通りに記載)
- 贈与の時期:契約締結日、引渡日
- 贈与の目的:無償譲渡であることの明記
- 登記手続きの委任:所有権移転登記を行う旨の記載
- 各種費用の負担:登録免許税、不動産取得税などの負担者
贈与契約書の効力を高めるために
贈与契約書は、トラブルを防止するために以下の点に注意して作成しましょう:
- 契約書には日付を明記し、贈与者と受贈者の署名・押印を行う
- 実印を使用し、印鑑証明書を添付するとより効力が高まる
- 公正証書で作成すると、法的な証明力が格段に高まる
- 条件や負担付きの贈与の場合は、その内容を明確に記載する
相続時精算課税制度の活用
相続時精算課税制度は、60歳以上の親から18歳以上の子(2022年4月から年齢要件が引き下げられました)への贈与に適用される制度です。この制度を利用することで、贈与時に贈与税を支払うのではなく、相続時に精算することが可能です。2,500万円までの贈与が非課税となりますが、相続時に相続財産に加算して相続税の対象となります。
相続時精算課税制度の主な特徴
- 特別控除額:2,500万円(生涯累計)
- 税率:特別控除超過分に一律20%の税率
- 相続税との関係:贈与財産は相続時に相続財産に加算して計算
- メリット:高額な不動産でも一度に贈与できる、将来の値上がり分が非課税
- デメリット:暦年課税制度との併用不可、一度選択すると撤回不可
不動産価値が2,500万円を超える場合でも、相続時精算課税制度を選択すれば一括贈与が可能です。特に将来的に不動産の価値上昇が見込まれる場合や、相続税の税率が高くなる可能性がある場合に有効な選択肢となります。
住宅取得資金の贈与
住宅取得資金として贈与する場合、一定の条件を満たせば非課税枠が適用されることがあります。非課税枠の金額や条件は年度によって異なるため、最新の情報を確認することが重要です。
住宅取得資金贈与の非課税制度(令和5年度現在)
直系尊属(父母や祖父母など)から住宅取得資金の贈与を受けた場合、以下の金額まで非課税となります:
- 耐震・省エネ・バリアフリー住宅:最大1,000万円
- その他の住宅:最大500万円
この特例は、基礎控除(110万円)や相続時精算課税制度と併用することも可能です。
適用条件
- 受贈者が贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上であること
- 贈与を受けた年の年収が2,000万円以下であること
- 贈与を受けた金銭で住宅を取得すること(新築・中古購入・増改築)
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住を開始すること
- 床面積が50㎡以上240㎡以下であること
不動産の共有持分の贈与
不動産の一部を贈与することで、贈与税の負担を軽減する方法です。共有持分の贈与は、将来的な不動産の管理や売却に影響を与える可能性があるため、慎重に検討する必要があります。
共有持分贈与のメリット
- 一度に全部を贈与するより贈与税の負担が少なくなる
- 贈与税の基礎控除(年間110万円)を複数年にわたり活用できる
- 段階的に資産を移転できるため、贈与者の生活への影響を最小限に抑えられる
共有持分贈与の注意点
- 共有者間での意見の相違により、不動産の管理や処分が困難になる可能性がある
- 共有持分の評価は単純な割合計算にならない場合がある(持分が小さいほど評価減となる)
- 将来的に共有物分割請求が行われる可能性がある
- 共有者の一人が債務を抱えた場合、持分が差し押さえられるリスクがある
共有持分贈与の実践例
時価5,000万円の自宅不動産を5年かけて子に贈与する場合:
- 1年目:20%の持分(評価額1,000万円)を贈与
- 2年目:さらに20%の持分を贈与
- 3〜5年目:残りの持分を段階的に贈与
毎年の贈与税の基礎控除(110万円)を活用し、5年間で完全に所有権を移転させる計画です。
信託の活用
不動産を信託に入れ、受益者を次世代に指定することで、管理や運用を信託会社に任せることができます。信託を利用することで、贈与税や相続税の負担を軽減することが可能です。
家族信託(民事信託)の活用
最近注目されている家族信託は、信託銀行などの金融機関を介さずに、家族間で信託契約を結ぶ方法です。この方法を利用することで、以下のようなメリットがあります:
- 所有権と管理権を分離できる(所有権は子に移転しつつ、親が管理を続けることが可能)
- 将来の認知症リスクに備えられる
- 不動産の共有状態による弊害を回避できる
- 遺言よりも柔軟な財産承継が可能
信託の仕組み
信託の基本的な構造は以下の3者から成ります:
- 委託者:信託を設定する人(親)
- 受託者:財産を管理・処分する人(信頼できる家族や専門家)
- 受益者:信託の利益を受ける人(子や孫)
例えば、親(委託者)が自宅不動産を長男(受託者)に信託し、次男と長女(受益者)のために管理・運用してもらうといった形態が考えられます。
生前贈与の注意点
生前贈与を行う際には、税理士や弁護士、司法書士などの専門家に相談し、法的および税務上の影響を十分に理解した上で進めることが重要です。また、最新の税制や法律の変更にも注意を払う必要があります。
主な注意点
- 贈与者の生活資金:贈与後の生活に支障がないか確認する
- 登記費用と税金:登録免許税、不動産取得税、贈与税などの費用負担を考慮する
- 抵当権等の制限:不動産に抵当権や担保権が設定されている場合は解除が必要
- 遺留分の問題:他の法定相続人の遺留分を侵害しないよう配慮する
- 贈与の否認リスク:贈与後すぐに贈与者が亡くなった場合、相続税回避目的とみなされるリスクがある
- 贈与者の判断能力:贈与時に判断能力があることを証明できるよう配慮する
不動産贈与の手続きと費用
不動産贈与には以下の手続きと費用が発生します:
- 贈与契約書の作成:公正証書の場合5〜10万円程度
- 所有権移転登記:登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)
- 不動産取得税:固定資産税評価額の3%(軽減措置あり)
- 贈与税:課税対象額と税率に応じて計算
- 司法書士報酬:5〜10万円程度
まとめ
生前贈与は、自宅不動産を次世代に引き継ぐための有効な手段です。贈与契約や相続時精算課税制度、住宅取得資金の贈与など、さまざまな方法を活用することで、相続税の負担を軽減し、次世代にスムーズに財産を引き継ぐことができます。専門家のアドバイスを受けながら、最適な方法を選択しましょう。
当事務所では、不動産の生前贈与に関する相談から登記手続きまで、一貫してサポートしております。お気軽にご相談ください。
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