法定後見における財産調査完全ガイド - 成年後見人の重要な最初の仕事
成年後見人に就任すると、最初に取り組むべき重要な業務が「財産調査」です。この調査は単なる形式的な手続きではなく、被後見人の権利を守り、適切な財産管理を行うための基礎となる極めて重要な業務です。本記事では、法定後見における財産調査の法的根拠から具体的な調査方法、財産目録の作成まで、専門家の視点から詳しく解説します。
本記事のポイント:
- 法定後見人の財産調査義務と法的根拠
- 効果的な財産調査の具体的方法
- 財産目録の作成と提出の重要性
- 当事務所による財産調査サポートの内容
法定後見人の財産調査義務 - 法的根拠と期限
成年後見人に就任すると、本人(被後見人)の財産を調査し、その内容を家庭裁判所に報告する法的義務があります。この義務は民法に明確に規定されており、後見人の最初の重要な責務となります。
法的根拠と期限
民法第853条
後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し、1か月以内に、その調査を終わり、かつ、その目録を作成しなければならない。ただし、家庭裁判所は、この期間を伸長することができる。
この規定により、成年後見人は就任後すぐに財産調査を開始し、原則として1か月以内に調査を完了して財産目録を作成・提出しなければなりません。そのため、就任直後の1か月は、成年後見人にとって特に忙しい期間となります。
なお、複雑な財産状況や大規模な資産を持つ被後見人の場合など、1か月以内の完了が難しい場合は、家庭裁判所に期間延長を申し立てることができます。

なぜ財産調査が重要なのか:
- 被後見人の権利保護:正確な財産把握が本人の権利と財産を守る第一歩
- 適切な財産管理計画の基礎:収支バランスを考慮した生活設計の土台となる
- 後見人の責任の明確化:就任時点での財産状況を明らかにすることで、将来の疑義を防止
- 家庭裁判所の監督基準:定期的な報告の比較対象として機能
- 親族間の将来的なトラブル防止:明確な記録により後日の紛争リスクを軽減
効果的な財産調査の方法 - 4つの基本アプローチ
財産調査は、まず本人自身に尋ねるのが理想ですが、認知症の進行などで確認できない場合が多いのが現実です。そのような場合、成年後見人自らが様々な方法を駆使して調査する必要があります。以下に、効果的な財産調査の基本的な方法を紹介します。
1. 市町村役場で取得できる証明書を活用する
公的機関が発行する各種証明書は、財産調査の基本となる重要な資料です。特に以下の証明書が有用です:
証明書の種類 | 得られる情報 | 活用ポイント |
---|---|---|
固定資産評価証明書 公課証明書 | 不動産(土地・建物)の有無、所在地、評価額 | その市町村に所有する不動産が全てリストアップされるため、網羅的な把握が可能 |
所得証明書 課税証明書 | 収入源、金額、種類(給与・年金・不動産など) | 通帳との突合により口座発見や税金還付申請の参考に |
軽自動車税納税証明書 | 車両の有無、種類、納税状況 | 所有車両の確認や、不要な課税の軽減申請に活用 |
特に固定資産評価証明書は、その市町村内に所有する不動産がすべて記載されるため、本人が把握していなかった不動産の発見にも役立ちます。また、課税明細書では医療費控除や還付金の有無も確認できるため、追加収入の可能性を探ることができます。

2. 預貯金通帳を詳細に確認する
預貯金通帳は、被後見人の日常的な収支状況だけでなく、他の金融資産や契約関係を把握する重要な手がかりとなります。通帳からは以下のような情報が読み取れます:
- 定期的な収入:給与、年金、賃料収入など
- 自動引き落とし・自動振替:公共料金、保険料、ローン返済など
- 他金融機関への振込:証券口座や他銀行口座の存在を示唆
- 定期預金の満期更新履歴:定期預金の存在と金額
- 保険料の支払い:生命保険や損害保険の契約の存在
特に注目すべきは自動引き落としや振替の記録です。これらは継続的な契約関係を示すとともに、証券会社や他の金融機関の口座の存在を示す重要な手がかりとなります。過去数年分の通帳記録を丁寧に確認することで、季節的な支払いや年に一度の支払いなども把握できます。

3. 郵便物を定期的に確認する
被後見人宛ての郵便物は、通帳や公的証明書では把握できない財産情報を発見する重要な手がかりとなります。特に以下のような郵便物に注目しましょう:
- 銀行からの通知:定期預金の満期案内、利息の案内、キャンペーン案内など
- 証券会社からの報告書:取引残高報告書、運用状況報告書など
- 生命保険会社からの通知:契約内容のお知らせ、配当金のお知らせなど
- クレジットカード会社からの明細:利用状況や契約内容の確認
- 税務署からの通知:還付金のお知らせ、確定申告の案内など
郵便物は年に一度程度しか届かないものも多いため、最低でも1年間は継続的に確認することが望ましいでしょう。また、郵便物の転送サービスを利用している場合は、転送先の変更手続きも忘れずに行いましょう。
4. その他の契約書や証書類を確認する
被後見人の自宅や所持品から、様々な契約書や証書類を発見できることがあります。以下のような書類を探してみましょう:
- 不動産関係書類:権利証、登記済証、売買契約書、賃貸契約書など
- 保険証券:生命保険、医療保険、損害保険などの契約書類
- 年金関係書類:年金手帳、年金証書、年金決定通知書など
- 投資関係書類:株式や投資信託の取引報告書、配当金計算書など
- ローン契約書:住宅ローン、自動車ローン、カードローンなどの契約書
- 税務関係書類:確定申告書の控え、源泉徴収票、納税証明書など
これらの書類は、自宅の書棚やキャビネット、金庫、押入れなどに保管されていることが多いです。被後見人のプライバシーに配慮しつつ、丁寧に探索することが大切です。
財産調査のプロが教える「隠れた財産」の見つけ方:
- 古い通帳も要チェック:使用頻度の低い口座や休眠口座に意外な預金が眠っていることも
- 銀行印や実印の保管場所を確認:近くに重要書類が保管されていることが多い
- 税金の還付申告の機会を見逃さない:医療費控除や住宅ローン控除など、申告していない還付金がある可能性
- 複数の金融機関を調査:特に地元の金融機関や本人の勤務先関連の金融機関をチェック
- 生命保険会社への照会:契約者貸付や解約返戻金の確認
財産目録の作成と提出 - 適切な後見事務の基礎
財産調査で得られた情報をもとに、成年後見人は財産目録を作成し、家庭裁判所に提出する義務があります。この財産目録は、その後の後見事務の基準となる重要な書類です。
財産目録の重要性
財産目録は単なる形式的な書類ではなく、以下のような重要な役割を持っています:
- 被後見人の財産状況の明確化:後見開始時点の財産を明確に記録
- 後見事務の計画立案の基礎:収支計画や財産管理方針の策定に不可欠
- 家庭裁判所の監督の基準:定期報告との比較により財産管理の適正さを判断
- 後見人の責任範囲の明確化:後見人が管理すべき財産の範囲を明確にする
- 将来的な相続時のトラブル防止:後見開始時の財産状況の客観的記録として機能
財産目録の作成がずさんだと、後見人の管理が不十分と判断されるリスクや、横領の疑いをかけられるリスク、後日の家族間トラブルに発展するリスクなどがあります。丁寧かつ正確に作成することが極めて重要です。

財産目録の作成方法と提出時期
財産目録は、家庭裁判所が指定する書式に従って作成します。多くの裁判所では専用の書式が用意されていますが、基本的には以下の項目を記載します:
- 預貯金:金融機関名、支店名、口座種類、口座番号、口座名義、残高
- 不動産:所在地、種類、面積、評価額、共有の場合は持分
- 有価証券:種類、銘柄、株数・口数、評価額
- 現金:金額、保管場所
- 動産:自動車、貴金属、美術品など高額なものの種類、評価額
- 保険:保険会社名、契約種類、契約者、被保険者、受取人、保険金額、解約返戻金額
- 債権:貸付金などの種類、相手方、金額
- 債務:借入金、未払金などの種類、相手方、金額
財産目録の提出時期は以下のとおりです:
- 初回提出:後見開始後1ヶ月以内(期間延長申請も可能)
- 定期提出:多くの裁判所では年1回程度(裁判所により異なる)
- 臨時提出:裁判所の求めがあった場合や、財産状況に大きな変化があった場合
実務上のポイント:
財産目録作成時には以下の点に注意しましょう:
- 残高証明書や評価証明書を添付:預金残高証明書、不動産評価証明書など、客観的な証明書類を添付することで信頼性が高まります
- 基準日を明確に:すべての財産の評価基準日(例:後見開始審判確定日)を統一し、明記しましょう
- 写真等の証拠を残す:貴金属や美術品などは写真を撮っておくと、後日の紛争防止に役立ちます
- 些細な財産も記載:「価値がない」と判断せず、わかる範囲ですべての財産を記載しましょう
- 控えを保管:提出した財産目録のコピーは必ず保管しておきましょう
当事務所の財産調査・財産目録作成サポート
財産調査と財産目録の作成は、成年後見人にとって専門的知識と経験が求められる重要な業務です。当事務所では、これらの業務を専門的な知識と経験に基づいてサポートいたします。
当事務所でお手伝いできること
- 財産調査のコンサルティング:効果的な調査方法のアドバイスと調査計画の策定
- 各種証明書類の取得代行:固定資産評価証明書や所得証明書などの取得代行
- 金融機関への照会サポート:預貯金調査に関する照会状の作成と手続きサポート
- 財産目録の作成支援:裁判所書式に基づく正確な財産目録の作成
- 収支予定表の作成:調査結果に基づく適切な収支予定表の作成
- 定期報告書類の作成支援:後見事務報告書など定期的な報告書類の作成
- 後見人・保佐人・補助人等への就任:専門家として後見人等に就任することも可能
その他、ご要望に応じて柔軟に対応いたしますので、成年後見に関するご不明点やお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。

法定後見の財産調査 - まとめ
法定後見における財産調査は、被後見人の権利を守り、適切な財産管理を行うための基礎となる極めて重要な業務です。成年後見人は民法上の義務として、就任後1ヶ月以内に財産調査を完了し、財産目録を作成・提出する必要があります。
効果的な財産調査のためには、市町村役場で取得できる各種証明書の活用、預貯金通帳の詳細確認、郵便物のチェック、各種契約書や証書類の確認など、複数のアプローチを組み合わせることが重要です。これらの調査を丁寧に行うことで、被後見人の財産状況を正確に把握し、適切な後見計画を立てることができます。
また、調査結果に基づいて作成する財産目録は、後見事務の基準となる重要な書類です。正確かつ詳細な財産目録を作成することで、後見人の責任範囲が明確になり、家庭裁判所の適切な監督が可能になるとともに、将来的な相続時のトラブル防止にもつながります。
当事務所では、財産調査から財産目録の作成まで、成年後見人の重要な初期業務を専門的な知識と経験に基づいてサポートいたします。ご自身やご家族の大切な財産管理でお困りの際は、ぜひご相談ください。
専門家からのアドバイス:
財産調査は後見事務の中でも特に重要な業務です。「わからない」「面倒」といって省略したり、不十分な調査で済ませたりすると、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。わからないことや不安なことがあれば、早めに専門家に相談することをお勧めします。当事務所では初回相談30分無料で承っておりますので、お気軽にご連絡ください。
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法定後見や財産調査に関するご相談は、お電話またはメールにて「後見で相談」とお伝えください。
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※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別のケースに対する法的アドバイスを構成するものではありません。具体的な法律相談については、当事務所までお問い合わせください。
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