株式会社設立時の定款認証における実質的支配者認定方法の変更点
日本司法書士会連合会を通して日本公証人連合会から「株式会社が発起人である場合の定款認証の際の実質的支配者の認定根拠資料について」の通知がありました。株式会社設立時、公証人の定款認証を受けるために提出する実質的支配者の根拠資料について、その取り扱いが一部変更されましたので、重要なポイントを解説します。
本記事のポイント:
- 実質的支配者の認定根拠資料に新たな選択肢が追加
- 会社の「しかるべき立場の者」が作成した書類も認められるように
- 株主リストの活用も推奨
- 変更の背景となった規制改革実施計画について
- 定款認証手続きの効率化への取り組み
実質的支配者の認定根拠資料に関する変更点
株式会社設立時、公証人による定款認証の際には、マネーロンダリングやテロ資金供与防止の国際的要請(FATF勧告)に基づき、設立される会社の実質的支配者を確認するための根拠資料の提出が求められています。従来は限定的な書類のみが認められていましたが、今回の変更により選択肢が広がりました。
変更前と変更後の認定根拠資料
変更前(従来の方法)
以下のいずれかの書類を提出する必要がありました:
- 株主名簿記載事項証明書
- 株主リスト
- 株主名簿
変更後(追加された方法)
令和4年6月17日からは、上記に加えて次の方法も認められるようになりました:
「実質的支配者の認定根拠資料となる書類は、当該会社のしかるべき立場の者が作成名義人となっており、所要の事項(実質的支配者である株主の名前・住所、保有株式数、議決権割合など)が記載されているもので足りる。」
新たに認められる書類の形式と要件
追加された方法では、書類の名称は「証明書」「上申書」「報告書」「陳述書」など特に限定されず、以下の要件を満たすものであれば認められます:
作成者の要件
当該会社の「しかるべき立場の者」が作成名義人となっていること。これは通常、会社の代表者や役員など、会社の株主構成について正確な情報を持つ立場にある人物を指します。
記載事項
実質的支配者である株主の名前・住所、保有株式数、議決権割合など、実質的支配者を特定するために必要な情報が記載されていること。
内容の真正性
作成者は「株主名簿に記載された内容に相違ない」ことを付記して、署名または記名捺印する必要があります。ただし、嘱託人とのやり取りや関係資料から成立の真正について公証人が心証を得られる場合には、記名のみでも差し支えないとされています。
株主リストの活用
今回の変更では、商業登記申請時に作成する「株主リスト」の活用も推奨されています。株主リストとは以下のような書類です:
株主リストとは
商業登記の申請時に以下のいずれかの場合に作成する書類です:
- 株主総会の決議を要する場合:議決権数上位10名の株主または議決権割合が3分の2に達するまでの株主(いずれか少ない方)の情報を代表者が証明したもの(商業登記規則61条3項)
- 株主全員の同意を要する場合:株主全員について、その氏名または名称、住所、株式数、議決権数を代表者が証明したもの(商業登記規則61条2項)
株主リストには実質的支配者でない者も掲載されている場合があるため、実質的支配者となるべき者の記載部分のみを抽出して提出することも可能です。
変更の背景
この変更は、令和4年6月7日付け閣議決定「規制改革実施計画」を受けて行われました。同計画では、行政手続の簡素化・効率化が重要な柱となっており、企業の設立手続における負担軽減を目指しています。
「FATF対応定款認証制度に関するQ&A」も令和4年6月17日に改正され、実質的支配者の確認方法について柔軟な対応が可能になりました。これにより、会社設立手続きの円滑化が期待されます。
実質的支配者とは
会社の事業活動に対して支配的な影響力を有する個人のことです。一般的に、議決権の25%超を直接または間接的に保有している個人などが該当します。マネーロンダリングやテロ資金供与防止の観点から、その特定が国際的に求められています。
FATF(金融活動作業部会)とは
マネーロンダリングやテロ資金供与対策の国際基準を策定する政府間機関です。日本を含む多くの国が加盟しており、その勧告に基づいて各国は法制度を整備しています。実質的支配者の確認もFATF勧告に基づく措置の一つです。
実務上の影響と対応
今回の変更により、株式会社設立時の定款認証手続きにおける実質的支配者の確認がより柔軟になりました。特に以下の点に注意して対応することが重要です:
- 既存の方法(株主名簿記載事項証明書など)も引き続き有効ですが、新たな選択肢も検討できます
- 会社の「しかるべき立場の者」による証明書類を作成する場合は、必要な記載事項を漏れなく含めることが重要です
- 商業登記申請時に作成する株主リストがあれば、それを活用することも効率的です
- 公証人によって運用に若干の違いがある可能性もあるため、事前に確認することをお勧めします
まとめ
株式会社設立時の定款認証における実質的支配者の認定方法が柔軟化され、会社のしかるべき立場の者が作成した書類も認められるようになりました。これにより、会社設立手続きの負担軽減が期待されます。
ただし、実質的支配者の確認はマネーロンダリングやテロ資金供与対策として重要な手続きであるため、内容の正確性には十分注意する必要があります。不明な点がある場合は、専門家に相談することをお勧めします。
会社設立・定款認証に関するご相談
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司法書士・行政書士和田正俊事務所
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