遺言書保管制度の実態と活用法 - 便利だけれど意外と大変な制度の全貌
2020年7月に始まった法務局の遺言書保管制度。「たった3,900円で公的機関に遺言書を保管してもらえる」という画期的な制度ですが、実際の利用状況は期待ほど伸びていません。司法書士として実務で関わってきた経験から、この制度の実態と活用のコツをご紹介します。
本記事のポイント:
- 遺言書保管制度が思ったより利用されていない理由
- 利用する際の具体的な制約と注意点
- 制度を効果的に活用するためのアドバイス
- 制度のメリットと適した利用シーン
遺言書保管制度の現状 - なぜ利用が進まないのか
法務局としては積極的に推進したい遺言書保管制度ですが、実際に利用してみると思った以上に制約が多く、利用しづらい面があります。主な利用の障壁となっている点を見ていきましょう。
1. 自筆証書遺言が前提
まず大前提として、この制度は「自筆証書遺言」を保管するための制度です。公正証書遺言は対象外となります。2019年の民法改正により、財産目録部分についてはパソコンで作成したり、通帳や登記事項証明書のコピーを添付したりすることが可能になりましたが、遺言書の本文はすべて手書きである必要があります。
デジタル化が進む現代において、長文を手書きすることに慣れていない方にとっては、これだけでも大きなハードルとなっています。
2. A4サイズと余白の厳格な制限
遺言書の形式要件
- 用紙サイズ:A4サイズ(210mm×297mm)のみ
- 余白:上下左右それぞれ2cm以上必要
- 筆記具:消えないボールペンまたは万年筆を推奨(鉛筆は不可)
- 文字:読みやすい文字で、はみ出しなく記載
これらの条件を満たさないと、法務局で受け付けてもらえません。
遺言書保管制度特有の問題として、A4サイズの用紙に限定され、指定された余白を確保する必要があります。これは、法務局がスキャナで文書を取り込み、データとして保管する「供託」という制度を利用しているためです。
そのため、A4サイズ以外の用紙に記載された遺言書は預かってもらえません。さらに、定められた余白部分に少しでも文字がかかっていると、法務局では受け付けてもらえないという厳格なルールになっています。
実際の経験では、せっかく作成した遺言書を法務局に持って行っても、余白部分に文字が少しかかっているという理由で預かってもらえず、書き直して再度提出するということもありました。
3. その他の利用上の課題
- 写真付き身分証明書が必須:マイナンバーカードや運転免許証などの写真付き身分証明書がないと利用できません。高齢者の中には、これらを持っていない方も少なくありません。
- 内容チェックなし:法務局は遺言書の形式のみをチェックし、内容の有効性や法的妥当性はチェックしません。そのため、内容に不備があっても、そのまま保管されてしまう可能性があります。
- 予約制の法務局が多い:多くの法務局では事前予約が必要で、希望日にすぐ手続きできるとは限りません。
遺言書保管制度のメリット - それでも利用する価値はある
ここまで制約や難しさについて説明してきましたが、この制度には確かに大きなメリットもあります。
低コストで確実な保管
わずか3,900円で法務局という公的機関に遺言書を保管してもらえます。紛失や改ざんのリスクがなく、安心です。
死後の確実な通知
遺言者の死亡後、法務局から相続人や遺言執行者に通知されるため、遺言書の存在が確実に伝わります。
検認不要
通常、自筆証書遺言は家庭裁判所での検認手続きが必要ですが、法務局保管の遺言書はこの手続きが不要で、相続手続きがスムーズになります。
秘密の保持
公正証書遺言と違い、作成時に証人が不要なため、遺言内容を他人に知られずに作成・保管できます。
遺言書保管制度を上手に活用するコツ
STEP 1: 下書きを作成する
まずA4用紙に余白を意識した下書きを作成します。罫線入りの用紙を使うと便利です。複雑な内容の場合は、専門家に相談しながら下書きを作成するとよいでしょう。
STEP 2: 清書する
下書きをもとに、余白に十分注意しながら清書します。法務局が提供するテンプレート(余白が印刷されたもの)を利用すると安心です。消えないボールペンで丁寧に書きましょう。
STEP 3: 法務局に予約を入れる
管轄の法務局に電話で予約を入れます。住所地、本籍地、または所有する不動産がある地域の法務局を選べます。
STEP 4: 法務局で手続きを行う
予約日に遺言書、身分証明書、手数料(収入印紙3,900円分)を持参します。申請書に記入し、手続きを完了させましょう。
専門家からのアドバイス:
- 複雑な内容の遺言を作成する場合は、まず司法書士や弁護士に相談することをお勧めします。形式だけでなく内容の法的妥当性もチェックしてもらえます。
- 遺言書保管制度の形式要件に不安がある場合は、公正証書遺言も検討してみてください。費用は高くなりますが、より確実性が高まります。
- 法務局提供の「自筆証書遺言書保管制度における遺言書の用紙例」を活用すると、余白の問題を避けやすくなります。
まとめ - 意外と大変だけど、活用する価値はある
遺言書保管制度は、確かに自筆の手間やA4サイズ・余白の制約など、利用するにはいくつかのハードルがあります。しかし、わずか3,900円という低コストで、遺言書の紛失や改ざんの心配なく保管でき、死後には確実に相続人等に通知される点は大きなメリットです。
遺言書を作成しようと考えている方は、この制度の特徴と制約を理解した上で、ご自身の状況に合わせて活用を検討してみてはいかがでしょうか。不安な点があれば、まずは専門家に相談することをお勧めします。
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