遺産分割協議における相続人の所在調査と不在者財産管理制度の活用
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要ですが、相続人の所在が不明な場合、手続きが停滞してしまいます。本記事では、相続人の所在調査方法と、連絡が取れない相続人がいる場合の法的解決策「不在者財産管理制度」について解説します。
遺産分割協議の基本:
- 遺産分割協議は相続人全員の参加と合意が必要
- 相続人の所在不明は遺産分割の大きな障害となる
- 所在不明相続人がいると、不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなどができない
- 早期に適切な対応を取ることが重要
相続人の所在調査の方法
相続人の所在調査は遺産分割協議を進めるための第一歩です。まずは法定相続人を特定し、その後に各相続人の現住所を調査するという流れになります。
相続人の特定
相続人を特定するには、被相続人(亡くなった方)の戸籍謄本等を収集する必要があります。
- 被相続人の戸籍関係書類の収集:被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本等
- 相続人の特定:被相続人の戸籍から配偶者、子、親、兄弟姉妹等の法定相続人を特定
- 相続人の戸籍謄本の収集:各相続人の生存確認のため
戸籍謄本等の請求
戸籍謄本等を請求する際のポイント:
- 請求場所:本籍地の市区町村役場
- 請求者資格:利害関係人(相続人、相続財産管理人など)
- 必要書類:請求者の身分証明書、利害関係を証明する書類(被相続人との関係を示す戸籍など)
- 手数料:1通450円程度(自治体により異なる)
司法書士に依頼すれば、これらの書類収集を代行してもらえます。
相続人の現住所確認
附票の確認
戸籍の附票とは、その戸籍が作成されてからの住所の変遷を記録したものです。本籍地の市区町村役場で取得できます。附票に最新の住所が記載されていれば、その住所に連絡を試みることができます。
住民票の取得
附票に記載された最新の住所地の市区町村役場で、相続人の住民票を請求することで、より確実な現住所を確認できます。ただし、請求には正当な理由が必要です。
その他の調査方法
親族や知人への聞き取り、SNSや電話帳での検索、調査会社への依頼なども考えられます。所在調査のために相応の努力をしたことを記録しておくことが重要です。
不在者財産管理制度の概要
相続人の所在調査を尽くしても連絡が取れない場合、「不在者財産管理制度」を利用することで遺産分割協議を進めることができます。
不在者財産管理制度とは
不在者財産管理制度は、民法第25条に基づき、不在者(行方不明者や長期間音信不通の人)の財産を管理するための制度です。家庭裁判所が選任した「不在者財産管理人」が不在者に代わって財産管理を行います。
不在者の定義:従来の住所や居所を去り、容易に戻る見込みがなく、長期間音信不通の状態にある者
不在者財産管理制度の申立て手続き
申立権者
利害関係人(他の相続人、債権者など)または検察官が申立てできます。相続人は通常、利害関係人に該当します。
申立て先
不在者の最後の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。
必要書類
申立書、不在者の戸籍謄本、不在の事実を証明する資料、申立人の資格を証明する資料などが必要です。
費用
収入印紙800円分と連絡用の郵便切手が必要です。また、不在者財産管理人への報酬も発生します。
不在者財産管理人の役割
家庭裁判所は申立てを審査し、不在者財産管理人を選任します。不在者財産管理人は通常、弁護士や司法書士などの法律の専門家が選ばれます。
財産の管理・保全
不在者の財産を調査し、適切に管理・保全します。財産目録を作成し、定期的に家庭裁判所に報告することが求められます。
保存行為と通常の管理行為
財産の価値を維持するための行為(修繕、税金の支払いなど)は家庭裁判所の許可なく行えます。
処分行為
財産の処分や権利の得喪を伴う行為(不動産の売却、遺産分割協議への参加など)は家庭裁判所の許可が必要です。
不在者財産管理人による遺産分割協議への参加
不在者財産管理人が遺産分割協議に参加するためには、家庭裁判所の特別な許可が必要です。
遺産分割協議参加の許可申立て
- 申立て:不在者財産管理人が家庭裁判所に「遺産分割協議参加許可」を申し立てます
- 審査:家庭裁判所は不在者の利益を害しないかを審査します
- 意見聴取:必要に応じて他の相続人などから意見を聴取します
- 許可決定:許可が下りれば、不在者財産管理人は不在者を代理して遺産分割協議に参加できます
なお、不在者の利益を優先するため、他の相続人と同等以上の取り分が確保される内容でなければ許可されない場合があります。
不在者財産管理制度利用のメリットとデメリット
メリット
- 遺産分割協議を進めることができる
- 不動産の名義変更や売却が可能になる
- 預貯金の払い戻しなど各種手続きが可能になる
- 法的に有効な遺産分割協議書を作成できる
デメリット
- 手続きに時間がかかる(申立てから選任まで数ヶ月程度)
- 費用がかかる(申立費用、管理人報酬など)
- 不在者の利益保護が優先されるため、希望通りの分割ができない場合がある
- 不在者が現れた場合、管理行為の報告義務がある
まとめ
遺産分割協議における相続人の所在不明は、相続手続きの大きな障害となります。まずは戸籍等の収集による相続人の特定と所在調査を尽くし、それでも連絡が取れない場合は不在者財産管理制度の活用を検討しましょう。
不在者財産管理制度は手続きが複雑で時間もかかりますが、相続手続きを進めるための有効な法的解決策です。ただし、専門的な知識が必要となるため、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
相続人の所在調査から不在者財産管理人の選任申立て、遺産分割協議への参加許可申立てまで、一連の手続きをサポートする専門家のアドバイスを受けることで、スムーズな相続手続きが可能になります。
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