会社の「商号」選びの基本ルールと注意点 - 登記実務のプロが解説
会社設立で最初に決めなければならないのが「商号」、つまり会社の名前です。商号は単なる名前以上の意味を持ち、会社のアイデンティティを表す重要な要素であると同時に、法的にも様々なルールが適用される対象です。この記事では、会社の商号に関する基本ルールから実務上の注意点まで、登記のプロフェッショナルの視点から詳しく解説します。
商号とは - 会社の顔となる正式名称
商号とは、会社を特定するための正式名称であり、法律上の呼称です。「株式会社〇〇」「合同会社△△」などがこれにあたります。商号は登記事項であり、商業登記簿に記載されることで公示され、法的な効力を持ちます。
良い商号は、以下のような特徴を持っています:
- 事業内容や企業理念が伝わる
- 覚えやすく、読みやすい
- 他社と区別しやすい独自性がある
- 将来の事業拡大を考慮した汎用性がある
- 法的な制限に抵触しない
実務上のポイント:
商号は会社の「顔」となるものです。短期的な流行に左右されず、長期的な視点で選ぶことをお勧めします。また、インターネットでのドメイン名取得やSNSアカウント取得の可能性も考慮に入れると良いでしょう。
商号の基本ルール - 使える文字と使えない文字
商号は比較的自由に設定できますが、会社法や商業登記法に基づくいくつかの制限があります。以下に詳しく説明します。
1. 使用できる文字
- 漢字・ひらがな・カタカナ: 日本語の表記はすべて使用可能です
- アルファベット: AからZまでの大文字と小文字が使用可能です
- アラビア数字: 0から9までの数字が使用可能です
- 特定の符号: 以下の符号は字句を区切る目的でのみ使用可能です
- 「&」(アンパサンド)- 例: 「ABC & Company」
- 「'」(アポストロフィー)- 例: 「John's Company」
- 「,」(コンマ)- 例: 「Design, Development」
- 「−」(ハイフン)- 例: 「Eco-Tech」
- 「.」(ピリオド)- 例: 「Co.Lab」
- 「・」(中点)- 例: 「システム・デザイン」
アルファベットを用いた商号では、単語間にスペースを使用することも認められています(例: 「Green Energy Solutions」)。
2. 使用できない文字・表現
- 記号・図形・紋様: 「♪」「★」「♡」などの記号や図形は使用できません
- 装飾性の高い括弧: 「( )」「【 】」などの装飾括弧は原則使用できません
- 営業所・営業部門を示す表現: 以下の用語は使用できません
- 「支店」「支社」「営業所」「出張所」
- 「branch」「office」などの同様の意味を持つ外国語
- 誤解を招く表現: 会社の組織形態と異なる表現(例: 合同会社なのに「株式会社」という文言を入れる)
注目ポイント:
「代理店」「特約店」は使用可能です。また、「支部」は以前は使用できませんでしたが、現在は使用可能となっています。登記実務は時代とともに変化するため、最新の情報を確認することが重要です。
3. 会社の種類を示す文言の必要性
商号には、会社の組織形態を示す文言を含める必要があります:
- 株式会社: 商号の前または後ろに「株式会社」を付ける必要があります
- 例: 「株式会社山田商事」または「山田商事株式会社」
- 合同会社: 商号の前または後ろに「合同会社」を付ける必要があります
- 例: 「合同会社グリーン」または「グリーン合同会社」
- その他の会社形態: 合資会社、合名会社についても同様です
4. 法令による使用制限のある言葉
特定の事業分野では、法令によって商号に使用できる言葉に制限があります:
制限のある言葉 | 関連法令 | 使用条件 |
---|---|---|
銀行 | 銀行法 | 銀行業の免許を取得している場合のみ使用可 |
信託 | 信託業法 | 信託業の免許を取得している場合のみ使用可 |
証券 | 金融商品取引法 | 金融商品取引業の登録を受けている場合のみ使用可 |
生命保険・損害保険 | 保険業法 | 保険業の免許を取得している場合のみ使用可 |
弁護士・司法書士・税理士 | 各専門職の法律 | 有資格者が設立する法人のみ使用可 |
注意:
「銀行」「信託」「証券」などの言葉を含む商号を使用すると、一般消費者に誤解を与える可能性があります。特に金融関連の言葉は厳しく規制されているため、これらの言葉を商号に使用する場合は、事前に関連法令を確認し、必要な許認可を取得しているかどうかを確認する必要があります。
類似商号に関する規制と実務上の注意点
類似商号規制の緩和
かつては「同一市区町村内での同一・類似商号の禁止」という規制がありましたが、2006年の会社法施行に伴い、この規制は大幅に緩和されました。現在は、同じ商号の会社が同じ地域に複数存在することも法律上は可能になっています。
ただし、以下の2つの制限が依然として存在します:
1. 不正競争目的での使用禁止
会社法第8条では、「何人も、不正の目的をもって、他の会社と誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない」と規定されています。この規定に違反した場合:
- 行政罰: 100万円以下の過料が科される可能性があります
- 民事上の請求: 侵害された会社から差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります
「不正の目的」とは、他社の顧客を自社に誘引する目的や、他社の商品・サービスと混同させる目的などを指します。
2. 同一所在場所での同一商号の禁止
商業登記規則第27条では、「同一の所在場所において同一の商号を使用する会社の登記は、することができない」と規定されています。これは、同じ住所で同じ名前の会社が存在すると、会社の同一性に混乱が生じるためです。
実務上のアドバイス:
法律上は類似商号が許容されているとはいえ、ビジネス上のリスク回避の観点からは、既存の有名企業や同業他社と類似した商号は避けるべきです。商標権侵害や不正競争防止法違反のリスクを回避するためにも、商号選びの際には事前調査が重要です。
効果的な商号選びのポイント
法的な制限を踏まえた上で、ビジネス上効果的な商号を選ぶためのポイントをご紹介します:
1. 事業内容を反映した商号
事業内容や取り扱う商品・サービスがわかる商号は、顧客に伝わりやすいというメリットがあります。
- 良い例: 「株式会社グリーンエナジー」(再生可能エネルギー事業)
- 良い例: 「株式会社システムソリューション」(IT関連事業)
2. 拡張性を考慮した商号
将来的な事業拡大を考慮し、特定の商品やサービスに限定されない商号も検討する価値があります。
- 良い例: 「株式会社フューチャーワークス」(多様な事業展開が可能)
- 注意が必要な例: 「株式会社スマホケース専門店」(事業拡大時に制約になる可能性)
3. 読みやすさと覚えやすさ
顧客や取引先に覚えてもらいやすい商号は、ビジネス上有利です。
- 読みやすい例: 「株式会社アップル」(シンプルで覚えやすい)
- 読みにくい例: 「株式会社インテリジェンスアクセラレーションテクノロジーズ」(長すぎて覚えにくい)
4. インターネット時代を考慮した商号
現代では、ウェブサイトやSNSでの展開も考慮した商号選びが重要です。
- ドメイン名が取得可能かどうか
- SNSのアカウント名として使えるか
- 検索エンジンで検索しやすいか
商号変更の手続きについて
すでに設立済みの会社が商号を変更する場合は、以下の手続きが必要になります:
- 定款変更: 株主総会(株式会社の場合)または社員総会(合同会社の場合)での決議
- 登記申請: 商号変更の登記申請を法務局に行う(変更後2週間以内)
- 関連機関への届出: 税務署、年金事務所、ハローワークなどへの届出
- 取引先への通知: 銀行や取引先企業への通知
- 各種表示の変更: 看板、名刺、ウェブサイトなどの変更
要注意:
商号変更は単なる「名前の変更」ではなく、会社のブランドイメージや認知度に大きく影響します。特に設立から時間が経過している会社の場合、商号変更によって既存の信用やブランド価値が失われるリスクもあります。商号変更を検討する際は、そのメリット・デメリットを慎重に検討することをお勧めします。
商業・法人登記のプロフェッショナルによるサポート
商号に関する判断や手続きは、会社の将来に大きく影響する重要な事項です。当事務所では、以下のようなサポートを提供しています:
- 商号選びのアドバイス: 法的制限や実務上の注意点を踏まえたアドバイス
- 商号の事前調査: 類似商号の有無や法的リスクの調査
- 会社設立時の商号登記: 適切な商号での会社設立手続き
- 商号変更の登記申請: 既存会社の商号変更手続きのサポート
- その他の法人登記: 目的変更、役員変更、機関変更などの登記申請
- 登記事項証明書の取得代行: 必要な証明書の迅速な取得
商号に関するご質問やお悩みがございましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。会社設立や商号変更の際に陥りやすい落とし穴を回避し、スムーズな手続きをサポートいたします。
司法書士・行政書士和田正俊事務所
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