会社の「目的」とは - 効果的な事業目的の設定方法と注意点
会社設立の際に定款に記載する重要事項の一つが「目的」です。会社の目的は単なる形式的な記載事項ではなく、会社が行える事業活動の範囲を法的に定め、対外的にも会社の事業内容を公示する重要な役割を持っています。本記事では、会社の目的の意味、設定ルール、効果的な記載方法について、登記実務の専門家の視点から詳しく解説します。
会社の目的とは - 事業内容を示す法的枠組み
会社の目的とは、その会社が行う事業内容を示す定款記載事項です。会社法上、すべての会社は定款に「目的」を記載することが義務付けられています(会社法第27条第1号)。
目的は単なる事業内容の説明ではなく、以下のような重要な法的意味を持ちます:
- 事業範囲の画定: 会社が法的に行える事業活動の範囲を定めます
- 第三者への公示: 取引先や顧客に対して会社の事業内容を公示します
- 役員の権限範囲: 取締役等の役員が会社を代表して行える行為の範囲を画します
- 許認可の前提: 特定の事業を行うための許認可申請の前提となります

実務上のポイント:
会社の目的に記載されていない事業を行うことは、原則としてできません。将来の事業拡大も見据えて、ある程度幅広く目的を設定しておくことが重要です。ただし、あまりに広範囲すぎると銀行融資や許認可取得の際に問題になることもあるため、バランスが必要です。
目的設定の4つの基本ルール
会社の目的を定める際には、以下の4つの基本ルールを遵守する必要があります。これらのルールは法務局による審査の基準ともなっています。
1. 適法性 - 法令に適合した事業であること
会社の目的は、法令や公序良俗に違反しない適法な事業内容でなければなりません。具体的には:
- 違法な事業(麻薬の製造販売、賭博場の運営など)は目的として記載できません
- 特定の資格や許認可が必要な事業は、無条件に目的とすることはできません
対応方法:資格や許認可が必要な事業は、「〜に関する事業(ただし、資格・許認可を要する事業は当該資格・許認可取得後に営む)」という但し書きを付けることが一般的です。
2. 営利性 - 利益追求を目的とした事業であること
会社は営利を目的とする社団法人であるため、その目的も営利(利益の獲得と分配)に関連したものである必要があります:
- 「政治献金」のような利益を生まない活動のみを目的とすることはできません
- 純粋な慈善事業のみを行う場合は、一般社団・財団法人や NPO法人等の形態が適切です
実務上の解釈:社会貢献活動や地域貢献活動も、会社の信用向上や間接的な利益につながる場合は、副次的な目的として記載することが可能です。

3. 具体性 - 事業内容が具体的であること
かつては事業内容の具体性が厳しく求められていましたが、現在は規制が緩和され、具体性については厳格な審査は行われなくなっています:
- 「商業」「製造業」といった広範な記載も許容されます
- 「前各号に付帯関連する一切の事業」といった包括的な記載も認められています
実務上のバランス:法的には広範な記載も可能ですが、実務上は事業内容がある程度わかる具体性を持たせることが望ましいです。特に銀行取引や取引先との関係では、会社の実態に即した目的記載が信頼獲得につながります。
4. 明確性 - 一般的に理解可能な表現であること
会社の目的は、一般人が理解できる明確な表現で記載する必要があります:
- 専門用語や外来語を使用する場合は、一般的な辞書(広辞苑、現代用語の基礎知識など)に掲載されているような用語を使用します
- 新しいビジネスモデルやサービスを表現する場合は、一般的に理解しやすい言葉で補足説明を加えることが望ましいです
具体例:「ブロックチェーン技術を活用したデジタル資産の管理及び運用サービスの提供」のように、新しい技術やサービスでも理解しやすい表現を心がけます。
目的設定のバランス:
会社の目的は「広すぎず、狭すぎず」が理想です。広すぎると銀行や取引先から不信感を持たれる可能性があり、狭すぎると事業展開の障壁になります。現在の事業内容を基本としつつ、将来的な展開も視野に入れたバランスの良い設定を心がけましょう。
効果的な会社目的の記載方法
会社の目的を効果的に記載するためのポイントと実践的なアドバイスを紹介します。
目的の記載形式
会社の目的は、通常、以下のような形式で記載されます:
第〇条 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。 1. ○○○○の製造及び販売 2. △△△△の輸出入及び販売 3. □□□□に関するコンサルティング業 4. 前各号に付帯関連する一切の事業
最後に「前各号に付帯関連する一切の事業」という包括条項を入れることで、主要事業に関連する周辺事業も柔軟に行えるようになります。
業種別の記載例
業種によって一般的な目的の記載例を紹介します:
IT関連企業の例
1. コンピュータソフトウェアの企画、開発、販売及び保守 2. ウェブサイト及びモバイルアプリケーションの企画、開発、運営及び保守 3. 情報処理サービス業及び情報提供サービス業 4. インターネットを利用した各種情報提供サービス業 5. 前各号に付帯関連する一切の事業
飲食店の例
1. 飲食店の経営 2. 食料品及び飲料の製造、販売及び輸出入 3. 食料品の宅配及びケータリングサービス 4. 食品加工技術の研究開発及びコンサルティング 5. 前各号に付帯関連する一切の事業
不動産業の例
1. 不動産の売買、賃貸、管理及び仲介 2. 不動産の有効利用に関するコンサルティング 3. 建築工事の企画、設計、施工及び監理 4. 宅地建物取引業 5. 前各号に付帯関連する一切の事業
許認可が必要な事業の記載:
宅地建物取引業、建設業、旅行業、医療関連事業など、特定の許認可が必要な事業を目的に含める場合は、「(ただし、○○の許認可取得後に営む)」といった但し書きを付けることもあります。これにより、許認可なしに事業を行うことはできないという制限を明示しています。
会社目的変更の手続き
既存の会社が新たな事業を始める場合や、事業内容を変更する場合には、目的の変更手続きが必要になります。
目的変更の手順
- 定款変更の決議: 株式会社の場合は株主総会、合同会社の場合は社員総会での特別決議が必要です
- 登記申請書類の準備: 目的変更の登記申請書、株主総会議事録または社員総会議事録、定款変更案などを準備します
- 登記申請: 管轄の法務局に登記申請を行います(変更の決議から2週間以内)
- 関連機関への届出: 必要に応じて、税務署や許認可機関などに変更届を提出します
登録免許税: 目的変更の登記申請には、登録免許税として30,000円が必要です(電子申請の場合は24,000円)。
目的変更が必要なケース
- 新たな事業分野に進出する場合
- 現在の事業内容が定款の目的に明示されていない場合
- 特定の許認可や契約において、該当事業が目的に明記されていることが要件となっている場合
実務上のアドバイス:
目的変更の登記は、他の変更登記(本店移転、役員変更など)と同時に申請することで、登録免許税を節約できる場合があります。複数の変更事項がある場合は、同時申請を検討することをお勧めします。
目的設定の注意点と一般的な間違い
会社の目的を設定する際によくある間違いと、その回避方法を紹介します。
避けるべき一般的な間違い
- 極端に広範な目的設定: 「あらゆる事業」のような極端に広い表現は避けるべきです
- 具体性のない抽象的な表現: 「各種サービス業」のみなど、具体性に欠ける表現は信頼性に欠けます
- 主要事業の優先順位の混乱: 最も重要な事業は最初に記載するのが一般的です
- 法令用語の誤用: 「金融業」「保険業」など法令で定義された用語を誤って使用すること
効果的な目的設定のためのチェックリスト
- 現在行っている事業が全て含まれているか
- 近い将来に展開予定の事業も含まれているか
- 特に重要な事業は具体的に記載されているか
- 許認可が必要な事業には適切な但し書きが付されているか
- 包括条項(前各号に付帯関連する一切の事業)が含まれているか
- 業界特有の専門用語は一般人にも理解できる表現になっているか
要注意:
銀行融資や公共入札、各種許認可の申請など、会社の事業活動において、定款の目的が重要な審査対象になることがあります。特に新規事業を始める際は、事前に目的変更を検討することをお勧めします。目的に記載のない事業活動は、法的に会社の権限外行為とみなされる可能性があります。
商業・法人登記のプロフェッショナルによるサポート
会社の目的設定や変更は、会社の将来の事業展開に大きく影響する重要な事項です。法的要件を満たしつつ、事業実態や将来計画に合った最適な目的設定を行うためには、専門家のアドバイスが有用です。
当事務所では、以下のようなサポートを提供しています:
- 会社設立時の目的設定サポート: 事業計画に基づいた最適な目的の提案
- 目的変更の登記申請: 定款変更から登記申請までの一貫したサポート
- その他の法人登記: 商号変更、役員変更、機関変更などの登記申請
- 登記事項証明書の取得代行: 必要な証明書の迅速な取得
会社の目的に関するご質問やお悩みがございましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。会社設立や目的変更の際に陥りやすい落とし穴を回避し、スムーズな手続きをサポートいたします。

司法書士・行政書士和田正俊事務所
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