定款認証手続きの重要変更:実質的支配者申告書の様式改定とその影響
令和5年6月1日より、公証役場で行う定款認証に関する実質的支配者申告書の様式が変更されました。この変更は国際テロ対策や大量破壊兵器拡散防止に関する法整備の一環として行われたものです。本記事では、この重要な変更内容とその影響について詳しく解説します。
本記事のポイント:
- 令和5年6月1日から実質的支配者申告書の様式が変更
- 大量破壊兵器関連計画等関係者の確認が追加要件に
- 財産凍結法に基づく国際的な不正資金対策の一環
- 株式会社・一般社団法人・一般財団法人の設立時に適用
- 公証人による実質的支配者の確認がより厳格化
様式変更の内容
今回の変更は、「国際的な不正資金等の移動等に対処するための国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第97号)の施行に伴うものです。
具体的には、公証人法施行規則の一部改正により、公証人が株式会社並びに一般社団法人及び一般財団法人(以下「株式会社等」という)の定款認証を行う際に、実質的支配者に関する確認事項の対象が拡大されました。
主な変更点は、財産凍結法第3条第2項の規定により公告されている者(大量破壊兵器関連計画等関係者)を実質的支配者の確認対象に追加したことです。これにより、定款認証の際に提出する実質的支配者申告書の様式が変更されました。
実質的支配者とは
実質的支配者とは、株式会社等の経営方針や事業運営に重大な影響力を有する個人を指します。具体的には以下のような者が該当します:
- 株式会社等の株式または出資金の25%以上を直接または間接的に所有・支配する者
- 株式会社等の事業活動に支配的影響力を有する者
- 株式会社等の代表権を有する者や役員
実質的支配者の確認は、マネーロンダリングやテロ資金供与防止の国際的な取組みの一環として重視されています。
様式変更の理由
この規則改正の背景には、国際社会が取り組む以下のような重要課題があります:
国際テロ対策の強化
国際テロリストの資金源を断つため、企業設立時の審査を厳格化することで、テロ組織が企業形態を利用して資金調達や資金洗浄を行うことを防止します。
大量破壊兵器拡散防止
北朝鮮やイランなどの大量破壊兵器開発計画に関与する個人や団体が、日本国内で企業活動を通じて資金や技術を調達することを防止するための措置です。
国際的な制裁措置への対応
国連安全保障理事会決議に基づく国際的な制裁措置に適切に対応するため、国内法制度を整備し、企業設立段階からの審査を強化することで、制裁対象者の経済活動を制限します。
規則変更の影響
今回の規則改正により、株式会社等の設立や定款変更を行う際の手続きには以下のような変更が生じます:
申告内容の拡大
定款認証を嘱託する際、嘱託人は実質的支配者申告書において、実質的支配者が財産凍結法第3条第2項の規定により公告されている者(大量破壊兵器関連計画等関係者)であるか否かを申告する必要があります。
公証人による確認の厳格化
公証人は、嘱託人から提出された実質的支配者申告書の内容を確認し、必要に応じて嘱託人に説明を求めることができます。特に、実質的支配者が制裁対象者リストに該当する可能性がある場合は、より詳細な調査が行われる可能性があります。
表明保証書への記載
実質的支配者が財産凍結法に基づく公告対象者であることが判明した場合、公証人はその旨を表明保証書に記載します。これにより、関係当局への情報提供や必要な措置が取られる可能性があります。
審査期間への影響
実質的支配者の確認事項が拡大されたことにより、公証人による審査に従来よりも時間がかかる可能性があります。特に国際的な企業や外国人が関与する会社設立の場合は、余裕をもったスケジュールで準備することが望ましいでしょう。
実務上の対応ポイント
- 最新の様式を使用する:令和5年6月1日以降は、必ず最新の実質的支配者申告書の様式を使用しましょう。
- 事前の実質的支配者確認:会社設立前に、実質的支配者が制裁対象リストに含まれていないか確認しておくことをお勧めします。
- 外国人株主・役員がいる場合:特に外国籍の株主や役員がいる場合は、本人確認書類や居住地情報など、より詳細な情報を準備しておくことが重要です。
- 専門家への相談:不明点がある場合は、司法書士や行政書士など法務の専門家に相談することをお勧めします。
規則変更の適用
この規則改正は令和5年6月1日から施行されていますが、それ以前から新様式を使用することも可能とされています。実際の適用にあたっては、以下の点に注意が必要です:
- 令和5年6月1日以降に定款認証を行う場合は、必ず新様式を使用する必要があります。
- 最新の様式は日本公証人連合会のウェブサイトで公開されています。
- 規則改正に関連して、公証人法施行規則の一部改正に関する告示(令和4年法務省告示第1号及び第2号)も公布されていますので、詳細はこちらも参照することをお勧めします。
なお、最新の実質的支配者申告書の様式や詳細情報は、日本公証人連合会のウェブサイトで確認することができます。

まとめ
今回の実質的支配者申告書の様式変更は、国際テロ対策や大量破壊兵器拡散防止という国際社会の重要課題に対応するための措置です。株式会社等を設立する際には、実質的支配者が誰であるかを明確にし、その者が国際的な制裁対象でないことを確認する責任が求められています。
この変更により、企業設立時の手続きには若干の負担増が生じますが、国際的な不正資金対策に貢献するという重要な意義があります。企業の社会的責任という観点からも、適切に対応していくことが求められます。
会社設立や定款変更を予定されている方は、新たな様式に対応した準備を行い、必要に応じて専門家のサポートを受けながら手続きを進めることをお勧めします。
会社設立・定款認証のサポート
当事務所では、会社設立や定款認証に関する手続きを専門的にサポートしております。実質的支配者申告書の作成から公証人役場での手続き代行まで、一貫したサービスを提供しています。新様式への対応や申告内容に不安がある方は、お気軽にご相談ください。
司法書士・行政書士和田正俊事務所
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