認知症の種類と症状:理解を深めるための基礎知識
認知症は高齢社会において大きな課題となっています。本記事では、認知症の定義、種類、症状、診断基準など、ご家族や介護に関わる方々に役立つ情報をわかりやすく解説します。認知症の早期発見と適切な対応のために、基本的な知識を身につけましょう。
本記事のポイント:
- 認知症の定義と有病率
- 主な認知症の種類と特徴
- 認知症の診断基準と評価方法
- 各タイプの認知症における特徴的な症状
- 認知症の予防と対応策
認知症とは
認知症とは、脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりすることで起こる、記憶や思考力などの認知機能の障害です。単なる物忘れとは異なり、社会生活や日常生活に支障をきたすほどの障害が生じた状態を指します。
厚生労働省の調査によると、2012年時点で65歳以上の高齢者のうち約462万人(高齢者人口の約15%)が認知症と推計されています。さらに、認知症になる可能性がある軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人いるとされ、今後の高齢化社会ではさらに増加すると予想されています。
年齢別の認知症有病率
認知症の有病率は年齢とともに上昇します:
- 65~74歳:10%以下
- 75~84歳:約20~30%
- 85歳以上:40%超
また、ほとんどの年代で女性の方が有病率が高いという特徴があります。
認知症の診断基準
認知症の診断には、国際的に認められた複数の診断基準が使用されています。主な診断基準には以下のようなものがあります:
ICD-10による定義
国際疾病分類第10版(ICD-10)では、以下の両方を満たす状態を認知症と定義しています:
- 記憶障害:新しい事象に関する著しい記憶力の減退。重症の場合、過去に学習した情報の想起も障害されます。
- 認知障害:判断力、思考力、一般情報処理能力の障害により、社会生活が有意に障害されます。
また、意識障害がなく、感情コントロール障害、発動性低下、社会行動の変化、情緒不安定、易刺激性、無関心、積極性低下、行動の粗雑化があることも条件となります。
DSM-IVによる定義
精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM-IV)では、以下を満たす場合に認知症と診断します:
- 複数の認知障害:
- 記憶障害(短期・長期)
- 失語(言語障害)、失行(運動機能障害)、失認(認識障害)
- 実行能力(計画・判断・抽象思考)の障害
- これらの障害が社会生活や職業活動に支障をきたし、以前の機能水準から有意な低下をもたらしていること
DSM-5による定義
最新の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)では、「神経認知障害」という新しい概念を導入し、以下の6つの認知領域について評価します:
- 複合的注意(complex attention)
- 実行機能(executive function)
- 学習と記憶(learning and memory)
- 言語(language)
- 知覚運動(perceptual-motor)
- 社会認知(social cognition)
これらの領域における障害のレベルと日常生活での自立度に基づいて、「大神経認知障害」(従来の認知症に相当)と「小神経認知障害」(軽度認知障害に相当)を区別します。
主な認知症の種類と特徴
認知症には様々な種類があり、原因や症状、進行の仕方も異なります。主な認知症の種類と特徴について見ていきましょう。
アルツハイマー型認知症
割合:認知症全体の約60~70%
特徴:脳内にアミロイドβタンパク質が蓄積し、神経細胞が徐々に死滅します。
主な症状:
- 記憶障害(特に新しいことを覚えられない)
- 見当識障害(時間や場所の感覚が失われる)
- 実行機能障害(計画を立てて実行する能力の低下)
- 徐々に進行し、ゆっくりと症状が悪化していく
血管性認知症
割合:認知症全体の約15~20%
特徴:脳梗塞や脳出血などにより、脳の血流が妨げられることで発症します。
主な症状:
- まだら認知症(障害された脳の部位によって症状が異なる)
- 歩行障害(小刻み歩行、すり足など)
- 感情コントロールの低下(感情の起伏が激しくなる)
- 段階的に進行することが多い(急激に悪化した後、一定期間安定する)
レビー小体型認知症
割合:認知症全体の約10~15%
特徴:脳内にレビー小体と呼ばれるタンパク質の異常な集積が見られます。
主な症状:
- 注意力や覚醒度の顕著な変動(日によって症状が大きく変わる)
- 具体的な幻視(人や動物などが見える)
- パーキンソン症状(手の震え、筋肉のこわばりなど)
- レム睡眠行動障害(睡眠中に夢の内容を行動に移す)
前頭側頭型認知症
割合:認知症全体の約5%
特徴:前頭葉と側頭葉が萎縮することで発症します。比較的若年層(40~60代)での発症が多いのが特徴です。
主な症状:
- 人格・行動変化(抑制がきかない、常同行動など)
- 社会的行動の障害(社会的ルールを守れない)
- 自発性の低下または過剰な行動
- 言語障害(特に進行性非流暢性失語の場合)
認知症の中核症状と行動・心理症状
認知症の症状は大きく「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」に分けられます:
中核症状
脳の神経細胞の障害によって直接引き起こされる認知機能の障害:
- 記憶障害:新しいことを覚えられない、以前の記憶も薄れる
- 見当識障害:時間、場所、人物の認識が困難になる
- 理解・判断力の低下:状況を正しく理解し判断することが難しくなる
- 実行機能障害:計画を立てて実行することが困難になる
- 失語・失行・失認:言語理解や表現、動作の実行、物の認識が難しくなる
行動・心理症状(BPSD)
中核症状に本人の性格や環境要因が加わって現れる症状:
- 不安・焦燥:落ち着きがなくなる、常に不安を抱える
- うつ状態:意欲の低下、無気力
- 幻覚・妄想:実際にはないものが見える、訴えがないのに盗られたと思う
- 徘徊:目的もなく歩き回る
- 攻撃的言動:怒りっぽくなる、暴力的な言動
- 睡眠障害:昼夜逆転、不眠
これらの症状は適切なケアや環境調整によって改善することが多いです。
認知症の予防と対応
認知症、特にアルツハイマー型認知症などは完全に予防することは難しいですが、発症リスクを下げたり、進行を遅らせたりする方法があります:
予防のための生活習慣
- 適度な運動:週に150分以上の中等度の有酸素運動
- バランスの良い食事:地中海式食事法や和食など
- 社会的交流:人との交流を積極的に持つ
- 知的活動:読書、パズル、新しいことを学ぶなど
- 十分な睡眠:質の良い睡眠の確保
- 生活習慣病の管理:高血圧、糖尿病、高脂血症などの管理
早期発見・早期対応
以下のような変化を感じたら、早めに専門医に相談することが重要です:
- 最近の出来事を思い出せないことが増えた
- 同じことを何度も言ったり聞いたりする
- 日常生活で判断力が低下している
- 金銭管理が難しくなった
- 趣味や社会活動への関心が薄れた
- 性格や行動に明らかな変化が見られる
認知症と成年後見制度
認知症が進行すると、財産管理や契約などの法律行為を自分で行うことが難しくなります。そのような場合に備え、成年後見制度の利用を検討することが重要です。
法定後見制度
すでに判断能力が低下している方のための制度です。本人の判断能力に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。
家庭裁判所に申立てを行い、審判によって後見人等が選任されます。
任意後見制度
将来、判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ自分で後見人と契約を結んでおく制度です。
本人の意思を尊重できる点や、信頼できる人を自分で選べる点がメリットです。
成年後見制度の利用を検討される場合は、専門家(司法書士、弁護士など)に相談することをお勧めします。
まとめ
認知症は脳の細胞の障害によって起こる症候群であり、様々な種類と症状があります。早期発見・早期対応が重要であり、適切なケアや環境調整によって症状の改善や進行の遅延が期待できます。
また、認知症に備えて、成年後見制度の利用を検討することも大切です。特に、まだ判断能力があるうちに任意後見契約を結んでおくことで、将来の不安に備えることができます。
認知症について正しく理解し、本人の尊厳を尊重したケアや支援を行うことが、認知症の方とその家族のQOL(生活の質)の向上につながります。
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