意思決定支援はなぜ「難しい」のか?

意思決定支援はなぜ「難しい」のか?

意思決定支援の課題と可能性:障害者の自己決定権を尊重するために

障害のある方の意思決定支援は、成年後見制度や日常的な支援の現場で重要なテーマとなっています。本人の意思を最大限尊重しながら支援することが理想ですが、実践においては様々な難しさに直面します。この記事では、意思決定支援が「難しい」と感じられる理由と、その課題を乗り越えるための考え方について考察します。

意思決定支援とは:

障害者本人が自分の人生に関する選択をする際に、必要な情報やアドバイス、コミュニケーションの方法などを提供し、本人の意思決定をサポートするプロセスです。これは単なる「世話」ではなく、本人の権利や尊厳を守りながら、その人らしい生活を実現するための重要な支援です。

意思決定支援が「難しい」と感じられる理由

1. コミュニケーションに関する偏見と誤解

言葉で話せない障害者に対して「言葉がない=意思がない」という誤った認識が広がっています。しかし、話せないことは意思がないことを意味しません。言語的コミュニケーションが難しい方でも、身体の動き、表情、目線、ジェスチャーなど、様々な方法で自分の意思や感情を表現しています。

このような非言語的なサインを見逃さず、本人の意思や心からの希望を丁寧に探ることが支援者に求められます。これには時間と忍耐、そして本人の表現方法への深い理解が必要です。

例:言葉で話せないAさんは、特定の活動の時間になると笑顔になり、体を前に乗り出します。この非言語的サインを支援者が読み取ることで、Aさんがその活動を楽しみにしていることが分かります。

2. 能力や経験の過小評価

障害があることや過去の「失敗」経験から、「この人は自分で決められない」と判断してしまうことがあります。しかし、障害のある方も他の人と同様に、挑戦し、失敗から学び、成長する存在です。

支援者は本人の能力や経験を適切に評価し、それを基盤として意思決定ができるよう支援する必要があります。小さな成功体験を積み重ねることで、本人の自信と意思決定能力は高まっていきます。

例:知的障害のあるBさんが一人暮らしを希望した際、「無理だ」と最初から否定するのではなく、料理や掃除などの生活スキルを少しずつ練習し、短期間の体験から始めるなど、段階的に支援することで自立への道を開くことができます。

3. 支援者側の課題:リスク回避とパターナリズム

支援者は本人の安全や利益を守りたいという思いから、過度のリスク回避やパターナリズム(温情主義的干渉)に陥りがちです。「危ないから」「本人のためだから」という理由で、本人の選択を否定したり、支援者が「正しい」と思う選択を強制したりすることがあります。

しかし、このような姿勢は本人の自己決定権や尊厳を侵害することになります。適切なリスク評価と本人との共有、そして本人の選択に伴う責任を共に担う姿勢が大切です。

例:精神障害のあるCさんが友人との旅行を希望した際、「調子を崩すかもしれない」と全面的に反対するのではなく、起こりうるリスクと対策を一緒に考え、必要な準備をサポートすることで、Cさんの自己決定を尊重しながら安全に配慮することができます。

意思決定支援と代理代行決定の明確な違い

意思決定支援(支援付き意思決定)

  • 本人が意思決定の主体
  • 本人の表出した意思や心からの希望に沿った支援
  • 本人の声を聴き、立場に立つ
  • 本人の選択を尊重
  • 自己決定権と尊厳の保障

代理代行決定

  • 本人以外が意思決定の主体
  • 第三者が考える「最善の利益」の追求
  • 本人の声を無視し、第三者の立場で判断
  • 第三者の選択を強制
  • 自己決定権と尊厳の侵害のリスク

意思決定支援を実践するためのポイント

1. 多様なコミュニケーション方法の模索

言語的・非言語的な表現を含め、その人固有のコミュニケーション方法を理解し、必要に応じて絵カードやタブレットなどの補助ツールも活用しましょう。

2. 選択肢の提示と情報提供

複数の選択肢とそれぞれのメリット・デメリットを分かりやすく説明し、本人が理解できる形で情報を提供しましょう。

3. 十分な時間と機会の確保

意思決定には時間がかかることを理解し、急がせず、繰り返し確認する機会を設けましょう。本人のペースを尊重することが大切です。

4. チームアプローチと多面的視点

家族、支援者、専門家など多様な関係者が協力し、本人の意思を多角的に理解するよう努めましょう。ただし、最終的な決定権は本人にあることを忘れないでください。

成年後見制度と意思決定支援

成年後見制度は本来、本人の意思決定を支援し、権利を守るための制度です。しかし、実際の運用では代理代行決定に偏りがちな面があります。

成年後見人や保佐人、補助人には、本人の意思決定を可能な限り尊重し、本人の自律を支援する役割があります。特に、以下の点に注意することが重要です:

  • 本人の意思や価値観、生活歴を理解する努力を継続すること
  • 本人に関わる決定について、可能な限り本人と相談し、同意を得ること
  • 代理権の行使は必要最小限にとどめること
  • 任意後見制度の活用など、本人が自ら将来の支援者を選ぶ機会を重視すること

まとめ:「難しい」けれど「できない」ことではない

意思決定支援は確かに「難しい」課題を含んでいますが、「できない」ことではありません。重要なのは、本人を主体とする支援の姿勢を持ち続けることです。完璧な支援はなくとも、本人の声に耳を傾け、本人の立場に立って考え、本人の選択を尊重する努力を続けることで、より良い支援は実現できます。

障害の有無にかかわらず、すべての人は自分の人生を自分で決める権利を持っています。意思決定支援は、この普遍的な権利を障害のある方々にも保障するための重要なアプローチなのです。

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