国際的な資金洗浄対策の最新動向:FATF声明と日本の対応

国際的な資金洗浄対策の最新動向:FATF声明と日本の対応

国際的な資金洗浄対策の最新動向:FATF声明と日本の対応

近年、国際社会における資金洗浄(マネーロンダリング)やテロ資金供与の問題は、国境を越えた重大な脅威となっています。2024年10月に開催されたFATF(Financial Action Task Force)の全体会合では、これらの問題に関する重要な声明が採択されました。本記事では、この声明の内容と日本における対応について詳しく解説します。

記事のポイント:

  • FATFとは国際的な資金洗浄・テロ資金対策の標準を策定する国際機関
  • 2024年10月の声明で北朝鮮、イラン、ミャンマーが特に問題視される
  • 日本では法務省と警察庁が中心となり特定事業者への周知を徹底
  • 金融機関をはじめとする特定事業者には厳格な顧客管理が求められる
  • 国際協力の強化が資金洗浄対策の成功に不可欠

FATFとは?

FATF(Financial Action Task Force、金融活動作業部会)は、1989年に先進国首脳会議(G7サミット)にて設立された政府間機関です。当初は資金洗浄対策を主な目的としていましたが、2001年の米国同時多発テロ以降はテロ資金供与対策、そして近年は大量破壊兵器の拡散金融対策も任務に加わりました。

FATFは「40の勧告」と呼ばれる国際基準を策定し、加盟国・地域はこれらの勧告を国内法制度に反映させることが求められています。また、定期的な相互審査を通じて各国の遵守状況を評価し、不備がある国に対しては改善を促します。

2024年10月のFATF声明の概要

声明の背景

2024年10月23日から25日にかけてパリで開催されたFATF全体会合では、資金洗浄・テロ資金供与対策に重大な欠陥を持つ国や地域に関する声明が採択されました。この声明は、グローバルな金融システムの健全性を守るために、特定の国々に対する警戒と対抗措置を求めるものです。

対象国と必要な対策

  • 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国):資金洗浄、テロ資金供与、拡散金融における重大かつ継続的なリスクに対して、引き続き対抗措置を適用するよう要請
  • イラン:国際金融システムへの深刻なリスクを理由に、対抗措置の適用継続を要請
  • ミャンマー:資金洗浄・テロ資金供与対策の戦略的欠陥が改善されていないことから、厳格な顧客管理措置の適用を求める

日本における対応

法務省と警察庁の取り組み

日本では、法務省と警察庁が中心となり、FATFの声明を受けて国内の特定事業者に対する周知活動を行っています。両機関は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)に基づく取引時確認義務の履行徹底を呼びかけています。

特定事業者への影響

特定事業者(金融機関、不動産業者、貴金属・宝石商、弁護士、司法書士、行政書士など)は、北朝鮮、イラン、ミャンマーとの取引に関して、厳格な顧客管理(Enhanced Due Diligence:EDD)を実施することが求められています。具体的には、取引目的の確認、資金源の精査、継続的な取引モニタリングなどが含まれます。

リスクベース・アプローチの実践

日本の金融機関や特定事業者は、リスクベース・アプローチに基づいた対応が求められています。これは、取引のリスク度に応じて適切な管理措置を講じるという考え方で、高リスク取引には、より厳格な確認・監視措置を適用する必要があります。

資金洗浄対策の重要性

国際安全保障への貢献

資金洗浄対策は、犯罪組織やテロリストの資金源を断つことで、国際的な安全保障に貢献します。不正な資金の流れを阻止することは、テロ活動や国際犯罪の防止に直結します。

経済の健全性確保

資金洗浄は金融システムの健全性を損ない、経済の安定を脅かします。適切な対策を講じることで、金融市場の信頼性を維持し、健全な経済活動を促進することができます。

国際協力の必要性

資金洗浄は国境を越えて行われるため、一国のみの努力では効果的な対策が困難です。国際的な協力体制の構築と、共通基準に基づいた対策の実施が不可欠です。

日本の取り組みの進展

日本は2019年のFATF第4次対日相互審査以降、法制度の整備や監督体制の強化など、資金洗浄対策の改善に取り組んでいます。継続的な対策の強化が国際社会からも求められています。

特定事業者が講じるべき対策

FATFの声明を受けて、特定事業者は以下のような対策を講じることが重要です:

  1. リスク評価の実施:自社の事業内容や取引類型に応じたリスク評価を定期的に行う
  2. 厳格な顧客管理:特に高リスク国・地域との取引には厳格な確認手続きを適用する
  3. 継続的なモニタリング:疑わしい取引を検知するための監視体制を整備する
  4. 疑わしい取引の届出:不審な取引を発見した場合は速やかに当局へ届け出る
  5. 従業員教育:最新の動向や規制について定期的な研修を実施する
  6. 内部管理体制の強化:組織全体で資金洗浄対策に取り組む体制を構築する

まとめ

2024年10月のFATF声明は、国際社会における資金洗浄・テロ資金供与対策の重要性を改めて強調するものです。特に北朝鮮、イラン、ミャンマーとの取引においては、厳格な顧客管理と継続的な監視が求められています。

日本においても、法務省と警察庁を中心に、特定事業者への周知活動が行われており、犯収法に基づく義務の履行徹底が求められています。資金洗浄対策は単なる法令遵守の問題ではなく、国際安全保障や経済の健全性を確保するための重要な取り組みです。

今後も、国際的な基準に基づいた対策を講じることで、資金洗浄やテロ資金供与のリスクを低減し、安全で安定した社会の実現に貢献していくことが重要です。特定事業者は、これらのリスクに対する意識を高め、適切な対策を講じることで、国際社会の一員としての責任を果たすことが求められています。

資金洗浄対策に関するご相談

犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認義務や、特定事業者としての対応についてのご質問やご相談は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。法律の専門家として、適切なアドバイスを提供いたします。

司法書士・行政書士和田正俊事務所

住所:〒520-2134 滋賀県大津市瀬田5丁目33番4号

電話番号:077-574-7772

営業時間:9:00~17:00

定休日:日・土・祝

法改正・時事情報に関連する記事

司法書士が解説!任意後見改正点の画像

任意後見契約の公正証書作成手続きが変わります!司法書士が解説する2025年9月改正のポイント

2025年9月施行の任意後見契約公正証書作成手続きの改正内容を司法書士が解説。専門資格者の本人確認方法の変更や外国人関連手続きの現代化など、実務上重要なポイントをわかりやすく説明します。
公正証書不正利用の実態!凍結口座強制執行の危険性の画像

司法書士解説:公正証書不正利用!凍結口座強制執行

強制執行認諾文言付きの公正証書は、裁判なしに強制執行が可能な強力な法的効力を持ちます。しかし近年、この制度を悪用した凍結口座からの不当な資金回収事件が発生。本記事では公正証書作成時の重要ポイントと、不当な請求を受けた際の対処法を司法書士の立場から詳しく説明します。
成年後見制度の未来:期間設定の画像

2025年最新情報:成年後見制度の未来像とは?司法書士が解説

法務省中間試案から成年後見制度の未来を考察。期間設定、類型柔軟化、本人の自己決定尊重など主要ポイントを司法書士が解説。