犯罪収益移転防止法の改正とその影響について
近年、犯罪による収益の移転を防止するための法律が強化されています。特に、令和6年12月2日に施行された「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則及び疑わしい取引の届出における情報通信の技術の利用に関する規則の一部を改正する命令」は、多くの特定事業者に影響を与える重要な改正です。本記事では、この改正の背景や内容、そして特定事業者や一般の方々にとっての影響について詳しく解説します。
改正のポイント:
- 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部改正に伴うもの
- 本人確認書類の取扱いが変更され、より厳格な確認が必要に
- 疑わしい取引の届出における情報通信技術の利用が促進
- 特定事業者は顧客や従業員への周知が必要
- 一般の方々の個人情報保護意識向上も期待
改正の背景
犯罪収益移転防止の重要性
犯罪による収益の移転は、マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与といった重大な犯罪行為に直結しています。これらの行為を防止することは、国際的な安全保障や経済の安定にとって極めて重要です。
近年、金融取引のデジタル化やグローバル化が進む中、犯罪組織による資金移動の手段も複雑化・巧妙化しています。そのため、各国は法律を整備し、犯罪収益の移転を防ぐための対策を講じています。日本も国際的な要請に応える形で、定期的に法令の見直しを行っています。
法律改正の目的
今回の法律改正は、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)の一部改正に伴うものです。これにより、より厳格な本人確認手続きが求められるようになり、犯罪収益の移転を未然に防ぐことを目的としています。
本改正は、FATFと呼ばれる国際的な機関(金融活動作業部会)から求められる国際水準を満たすための対応の一環でもあります。
改正の内容
本人確認書類の取扱い変更
改正により、特定事業者が顧客や従業員の本人確認を行う際の書類の取扱いが変更されます。具体的には:
- 特別児童扶養手当証書の廃止に伴う変更
- 健康保険証、国民健康保険被保険者証、船員保険被保険者証、後期高齢者医療被保険者証の廃止と「資格確認書」の新設
- 確認の方法について、より詳細な情報の提供が求められるようになる
これらの変更により、不正な取引を防ぐことが期待されています。本人確認の精度向上は、マネーロンダリングやテロ資金供与の防止に直接的に寄与します。
情報通信技術の利用
また、疑わしい取引の届出において、情報通信技術の利用が促進されます。これにより:
- 迅速かつ正確な情報の共有が可能に
- 行政手続きの効率化と透明性の向上
- デジタル技術を活用した監視・分析の強化
こうした技術の活用により、犯罪収益の移転をより効果的に防止することができます。
特定事業者への影響
周知の必要性
改正内容は、特定事業者にとって重要な変更を含んでいるため、施行に先立ち、顧客や従業員への周知が求められています。警察庁は、関係省庁と連携し、改正内容を早期に公表するよう努めていますが、現段階では他省庁の整備が完了していないため、情報の取扱いには注意が必要です。
特定事業者は、改正内容を正確に理解し、顧客に適切な説明ができるよう準備することが重要です。特に、本人確認書類の変更については、混乱を避けるための丁寧な説明が必要でしょう。
事業者の対応
特定事業者は、改正内容に基づき、以下のような対応が求められます:
- 社内規程やマニュアルの改訂
- 従業員への教育・研修の実施
- 本人確認システムの更新
- 顧客への周知・説明資料の準備
- 疑わしい取引の届出体制の見直し
これらの対応を適切に行うことで、法令遵守を徹底し、犯罪収益の移転を防止することが求められます。また、違反した場合の罰則も厳しいため、慎重な対応が必要です。
特定事業者とは
犯罪収益移転防止法における「特定事業者」には、以下のような業種が含まれます:
金融関連
- 銀行・信用金庫等の金融機関
- 保険会社
- 金融商品取引業者
- 貸金業者
非金融業種
- 不動産業者
- 宝石・貴金属等取扱事業者
- 郵便物受取サービス業者
- 電話受付代行業者
専門職
- 弁護士
- 司法書士
- 行政書士
- 公認会計士・税理士
一般の方々への影響
個人情報の取扱い
一般の方々にとっても、今回の改正は重要です。特に、本人確認手続きが厳格化されることで、個人情報の取扱いに対する意識が高まることが期待されます。
金融機関や不動産取引などでは、より詳細な本人確認が求められるようになります。これにより、ご自身の個人情報を適切に管理し、不正利用を防ぐための対策を講じることの重要性が増しています。
安全な取引環境の構築
改正により、より安全な取引環境が構築されることが期待されています。マネーロンダリングやテロ資金供与のリスクが減少することで、金融システム全体の信頼性が向上します。
これにより、消費者は安心して取引を行うことができ、経済活動の活性化にも寄与するでしょう。また、国際的な信用も高まり、日本の金融・経済システムの安定にもつながります。
手続きの変化に注意
一般の方々は、特に以下の点に注意が必要です:
- 従来の健康保険証等に代わる「資格確認書」の取得と活用
- 金融機関や不動産取引等での本人確認手続きの変更
- 個人情報の取扱いに関するより一層の注意
これらの変化に適応し、新しい制度に基づいた取引を行うことが重要です。
デジタル社会への対応
今回の改正は、デジタル社会への移行を促進する側面も持っています。情報通信技術の活用が進むことで、より効率的かつ透明性の高い取引環境が実現します。
一般の方々も、デジタル技術を活用した本人確認や取引方法に慣れていくことが求められるでしょう。マイナンバーカードの活用など、デジタル化の流れに対応することが重要です。
まとめ
犯罪収益移転防止法の改正は、犯罪による収益の移転を防ぐための重要な一歩です。特定事業者は、改正内容を理解し、適切な対応を行うことが求められます。また、一般の方々も、個人情報の取扱いに注意を払い、安全な取引環境の構築に寄与することが重要です。
この法改正は、単に法令遵守のためだけではなく、社会全体の安全と信頼を高めるための取り組みでもあります。全ての関係者が適切に対応することで、犯罪収益の移転を効果的に防止し、より安全で透明性の高い社会の実現に貢献することができるでしょう。
今後も法令遵守を徹底し、犯罪収益の移転を防止するための取り組みが求められます。特定事業者と一般の方々が協力して、この重要な社会的課題に取り組んでいくことが期待されています。
法律相談について
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司法書士・行政書士和田正俊事務所
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