登記事項証明書の権利部(乙区)とは?抵当権や賃借権など担保権・用益権を完全解説
不動産取引や相続手続きでよく目にする「登記事項証明書」。その中でも「権利部(乙区)」には、抵当権や地上権など所有権以外の権利関係が記録されています。本記事では、権利部(乙区)の見方や記載内容を詳しく解説し、不動産取引における重要ポイントをご紹介します。
登記事項証明書における権利部の役割と構成
登記事項証明書は、大きく分けて「表題部」と「権利部」で構成されています。表題部が不動産の物理的特徴(所在、面積など)を記録するのに対し、権利部はその不動産に関する権利関係を示す部分です。
権利部はさらに「甲区」と「乙区」に分かれています:
- 権利部(甲区):所有権に関する事項を記載
- 権利部(乙区):所有権以外の権利(担保権や用益権)を記載
つまり、乙区は「この不動産にどのような担保や制限が付いているか」を示す部分であり、不動産取引において非常に重要な情報が記録されています。住宅ローンを組む際の抵当権や、土地の利用権を示す地上権など、所有者以外の第三者が持つ権利が全て乙区に記載されます。
専門家からのアドバイス:
不動産を購入する際は、必ず権利部(乙区)を確認し、抵当権などの担保権が設定されていないかを確認することが重要です。特に中古住宅の場合、売主が住宅ローンを完済していても抵当権抹消登記が行われていないケースがあります。
権利部(乙区)に記載される主な権利
権利部(乙区)には、主に以下の2種類の権利が記載されます:
1. 担保権
担保権とは、債権者が債権の回収を確保するために設定する権利です。主な担保権には以下のようなものがあります:
- 抵当権:不動産を担保にして借り入れを行う際に設定される権利(住宅ローンなど)
- 根抵当権:継続的な取引から生じる不特定の債権を担保するために設定される権利(事業資金の借入など)
- 質権:不動産の占有を債権者に移転して設定する担保権(稀なケース)
- 先取特権:法律の規定により発生する優先弁済権
2. 用益権
用益権とは、他人の所有する不動産を利用する権利です。主な用益権には以下のようなものがあります:
- 地上権:他人の土地に建物を所有するために利用する権利
- 賃借権:借地や借家などの賃貸借契約に基づく権利(登記されている場合のみ記載)
- 地役権:自分の土地の便益のために他人の土地を利用する権利(通行地役権など)
- 永小作権:長期間にわたり農地を耕作する権利(現在は稀)
権利部(乙区)の基本構造と読み方
権利部(乙区)には、各権利に関する情報が時系列順に記録されています。一般的に記載される主な情報は以下の通りです:
- 順位番号:登記の順序を示す番号(1番、2番など)
- 登記の目的:抵当権設定、地上権設定など
- 受付年月日・受付番号:登記申請が受け付けられた日付と番号
- 権利者:抵当権者や地上権者の住所と氏名(名称)
- 債権額・利息・遅延損害金:担保権の場合に記載される債権の詳細
- 存続期間・地代:用益権の場合に記載される利用条件
- その他の条件:特約事項や制限内容など
これらの情報を通じて、不動産にどのような権利が設定されているか、その内容や条件を知ることができます。権利の登記は申請順に記録され、後から抹消された場合は下線や取消線が引かれて表示されます。
抵当権設定登記の詳細と読み方
不動産登記の権利部(乙区)で最も多く見られるのが抵当権設定登記です。サンプルの登記事項証明書では、順位番号「1番」で昭和52年6月1日に申請された抵当権設定登記が記録されています。
抵当権設定登記から読み取れる主な情報
- 被担保債権:「保証委託契約に基づく求償債権」。これは保証会社が設定した抵当権であることを示しています。
- 債務者:「山田太郎」。お金を借りた人(所有者と同一の場合が多い)。
- 債権額:「2500万円」。借入金額または保証限度額。
- 利息・遅延損害金:「年14%(年365日計算)」。返済が遅れた場合に発生する追加費用。
- 抵当権者:「東都保証サービス株式会社」。住宅ローンの保証会社。
- 共同担保目録:「(あ)第1256号」。この債権を担保するために他の不動産も抵当権が設定されていることを示します。
保証会社の抵当権について:
現在の住宅ローンでは、多くの場合、銀行からお金を借りますが、抵当権は保証会社が設定します。これは、借主が返済できなくなった場合、保証会社が銀行に代わって返済し、その後、保証会社が借主に求償権(立て替えたお金を請求する権利)を行使するためです。詳しくは抵当権抹消「弁済」?「解除」?をご参照ください。
抵当権変更登記 - 債権額の減額
抵当権の内容に変更があった場合、新たな順位番号ではなく、元の登記に「付記」という形で変更内容が記録されます。サンプルの登記事項証明書では、「付記1号」として平成2年12月15日に申請された「1番変更」が記録されています。
この変更登記は、抵当権の債権額が当初の「2500万円」から「500万円」に減額されたことを示しています。これは、一部返済によって残債務が減少したケースと考えられます。抵当権の債権額以外の条件(利息、遅延損害金など)は変更されていません。
抵当権変更登記が行われる主なケース
- 債権額の減額:一部返済により残債務が減少した場合
- 債権額の増額:追加融資を受けた場合
- 利息・遅延損害金の変更:金利条件の見直しがあった場合
- 債務者の変更:債務引受や債務者の名義変更があった場合
- 抵当権者の変更:債権譲渡や金融機関の合併などがあった場合
これらの変更は、抵当権設定契約の変更に基づいて登記されます。債権額の減額は債務者にとって有利な変更ですが、債権額の増額は第三者の利益を害する可能性があるため、登記の前後関係によっては法的効力に影響することもあります。
地上権設定登記 - 土地の利用権
地上権は、他人の土地に建物を所有するために設定される用益権です。賃借権と似ていますが、登記によって第三者にも対抗できる強い権利です。サンプルの登記事項証明書では、順位番号「2番」で平成2年12月15日に申請された地上権設定登記が記録されています。
地上権設定登記から読み取れる主な情報
- 地上権者:「鈴木花子」。土地を利用する権利を持つ人。
- 目的:「建物所有」。地上権を設定する目的。
- 存続期間:「平成2年12月15日から30年間」。地上権が有効である期間。
- 地代:「1平方メートル1年15,000円」。土地使用の対価として支払う金額。
地上権は、土地と建物の所有者が異なる場合に設定されることが多い権利です。例えば、借地上に自己所有の建物を建てる場合などに利用されます。地上権は物権(物に対する権利)なので、一度登記すれば、土地所有者が変わっても地上権者は保護されます。
地上権と賃借権の違い:
地上権と賃借権はどちらも他人の土地を利用する権利ですが、以下の点で異なります:
- 物権と債権:地上権は物権(物に対する権利)で、賃借権は債権(人に対する権利)
- 対抗力:地上権は登記により当然に第三者に対抗できるが、賃借権は登記または借地借家法の要件を満たす必要がある
- 権利の強さ:一般に地上権の方が賃借権より強い権利とされる
- 設定方法:地上権は登記が一般的だが、賃借権は登記されないことも多い
抵当権抹消登記 - 担保権の消滅
住宅ローンの完済などで抵当権が消滅した場合、抵当権抹消登記が行われます。サンプルの登記事項証明書では、平成23年10月10日に「解除」を原因として1番抵当権の抹消登記が行われています。
抹消された登記は、登記事項に下線が引かれて表示されます。全部事項証明書では抹消された登記も表示されますが、現在事項証明書では表示されません。
抵当権抹消の主な原因
- 弁済:借入金を完済したことによる抹消
- 解除:抵当権設定契約を解除したことによる抹消(保証会社が設定した抵当権の場合に多い)
- 放棄:抵当権者が権利を放棄したことによる抹消
- 混同:所有者と抵当権者が同一になったことによる抹消
抵当権の抹消原因が「弁済」ではなく「解除」となっている理由については、抵当権抹消「弁済」?「解除」?で詳しく解説しています。要約すると、保証会社が設定した抵当権の場合、借主が銀行に返済しても保証会社と借主の間の保証委託契約を「解除」することで抵当権が消滅するためです。
実務上の重要ポイント:
住宅ローンを完済しても、抵当権抹消登記は自動的には行われません。完済後に金融機関から抵当権抹消のための書類(抵当権抹消登記承諾書、登記識別情報など)を受け取り、自分で法務局に申請するか、司法書士に依頼する必要があります。抹消登記を行わないと、不動産の売却や再度の住宅ローン利用に支障が生じる可能性があります。
その他の権利部(乙区)に記載される主な登記
1. 根抵当権
根抵当権は、継続的な取引から生じる不特定の債権を一定の極度額(上限額)まで担保する権利です。事業資金の借入や当座貸越などで利用されることが多く、以下の特徴があります:
- 被担保債権:不特定の債権(取引から継続的に発生する債権)
- 極度額:担保される債権の上限額
- 元本確定期日:根抵当権の担保する範囲が確定する期日(設定されていないことも多い)
2. 賃借権
賃借権は、賃貸借契約に基づいて他人の不動産を使用・収益する権利です。通常の賃貸住宅や借地などの権利関係を示します。多くの賃借権は登記されませんが、登記された場合には以下の情報が記載されます:
- 賃借人:借りている人の住所・氏名
- 存続期間:賃借権の有効期間
- 賃料:支払うべき賃料の額
- 賃借の目的:居住、営業など
3. 仮登記
将来の本登記を保全するための仮の登記です。権利変動の順位を確保するために行われます。例えば、抵当権設定の仮登記や地上権設定の仮登記などがあります。
4. 順位変更
複数の権利が設定されている場合に、その順位を変更する登記です。例えば、後から設定された抵当権を先に設定された抵当権より優先させる場合などに利用されます。
5. 予告登記
将来行われる可能性のある登記について、事前に予告する登記です。不実の登記がされることを防止するために行われます。
権利部(乙区)を読み解く際の実務上のポイント
不動産取引や相続手続きなどで権利部(乙区)を確認する際、以下のポイントに注意することが重要です:
1. 抵当権などの担保権の有無
不動産購入時には、抵当権などの担保権が残っていないかを必ず確認します。担保権が残っている場合、原則として決済時に抹消する必要があります。
2. 共同担保の確認
「共同担保目録」の記載がある場合、他の不動産も同じ債権の担保になっています。一部の不動産だけを売却する場合、共同担保関係の処理が必要になることがあります。
3. 地上権・賃借権の確認
土地に地上権や賃借権が設定されている場合、その土地の利用が制限される可能性があります。購入前に必ず内容を確認し、将来の利用計画に支障がないか検討します。
4. 抵当権の債権額と現在の残債額
抵当権の債権額は登記時の金額であり、現在の残債額とは異なることが多いです。実際の残債額は金融機関に確認する必要があります。
5. 抹消された登記の確認
全部事項証明書では、抹消された登記も確認できます。過去にどのような権利が設定されていたかを知ることで、その不動産の履歴を理解できます。
要注意ポイント:
不動産の購入や担保提供を検討する際は、必ず最新の登記事項証明書で権利部(乙区)を確認し、抵当権などの担保権や地上権などの用益権が設定されていないかを確認してください。これらの権利が設定されている場合、不動産の価値や利用可能性に大きな影響を与える可能性があります。特に注意が必要なのは、差押登記や仮差押登記の存在です。これらの登記がある場合、その不動産は自由に処分できない状態にあります。
よくある質問と回答
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当事務所でお手伝いできること
- 抵当権抹消登記:住宅ローン完済後の抹消手続きを代行します
- 登記事項証明書の取得代行:必要な証明書を迅速に取得します
- 所有権移転登記:売買・相続・贈与などによる名義変更を登記します
- 住所変更登記:引っ越し後の住所変更を登記します
- 抵当権設定登記:住宅ローン借入時の担保設定手続きを行います
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